紙袋(・・・ヒトは見た目が9割・・・)

 もう暫く前になりますが、NHKの”プロフェッショナル”で旭川赤十字病院の脳外科医:上山博康氏の放送を見ました。
 上山医師は、年間300以上の手術をこなし失敗率1%以下という実績を誇りますが、私にはその実績よりそれを支える上山氏の信念にはるかに心を打たれました。
 彼は、過去に一人の患者との”助ける”との約束を、手術の失敗で反故にしてしまった無念さと、その亡くなった患者を想うが故に、放送中に涙していました。上山氏はそれ以後、手術の前には医師免許をかけて患者やその家族と向き合い、手術の成功性を話すようになりました。失敗を越えて”プロとして生きる”事の資格を司会者から問われ、”それは医師としてのプライドだ”と言い切りました。

 上山氏は”普通のオッチャン”の格好をして、毎朝出勤時資料を紙袋に入れて持ち運びます。
  「えー、紙袋で来られるDrなんか見たこと無いですよ。」
  「紙袋は便利ですよ。軽いし、資料を出したら折りたたんでそこら辺に置ける。ボロボロになりゃ捨てればいいんですから。」 
 その時の司会者、今をときめく”クオリア降臨”の脳科学者:茂木健一郎の唖然とした顔。
 私には彼の身に着けた洒落たジャケットが何故か色褪せ、常に華やかな彼が妙に矮小化して見えたのに対し、”普通のオッチャン”の上山氏が大きく輝いて見えました。

 「ヒトは見た目が9割」という本があります。
 確かにその言葉は真実です。
   (・・・普段は毎日来社される背広を着たMR・MSさんに失礼の無い様私もきちっとした姿をしますが・・・ )
 でも逆説的に見ると、”見た目では計り知れないヒトも1割いる”という事になります。
 また、”見た目で判断するヒト”ばかりでなく、”見た目だけではヒトを判断しないヒト”もいる事にもなります。

 昔、ミナミの漢方薬局で働いていた頃、昼休みに堺筋で寝転ぶ浮浪者のおじさん達とよく話しをしました。
 彼らと同じように道に座ると、行き交う人達が大きく見えます。
 その姿に自分を卑下し、更に自分を追い込むヒトがいます。
 でも決して全ての浮浪者がなりたくってなった訳ではありません。
   哀しい現実から逃避せざるを得なかったヒト・・・
   世間が受け入れようともしなかったヒト・・・
   知能の優れたヒト・・・
   卓越した人生観を持ったヒト・・・
 そんな人達がいっぱいいます。
 ”同じ視点に立つ”と、違った真実も見えてくるものです。

 ”9割の虚飾の現実”の中で生活し、”1割の真実”の中で生きていく。
 悪くない生き方だと思っています。