2012-01-01から1年間の記事一覧

前夜

*前夜 血行不良で紫色に腫れあがった足。その処置のために入院していた在宅患者が、新年を前に退院してきた。 認知症のために毎食後は飲めない、一包化しないと飲めない、粉薬も飲みにくく、要介護2の独居生活者だと紹介状に記して送り出していた。 退院し…

ある独居老人の現実

私が関わる在宅医療は、概ね高齢者が独居、或いは夫婦二人で自宅に住んでいるものばかりになっている。 その理由の一つは、所謂施設が在宅医療を必要とする高齢者が多く住んでいる理由から、効率良く訪問できるのに対し、個人宅は非効率な為、多くのチェーン…

 ある老女の死

齢90を越える老女は、早くに主人を亡くし、独りで暮らしてた。 確かに年相応の認知障害・運動障害も出てきてはいたが、金銭感覚も充分あり、食事や買い物介助で暮らす事が出来た。 若い時から自立した女性で、土地や自宅の資産もあり、現金も十分蓄えていた…

映画「ももへの手紙」

瀬戸内海に浮かぶ汐島。呉からこの島に向かうフェリーの甲板の上で、少女は母と一緒に周りの風景を見ているのだが、その表情はあまりにさえない。 そんな風情とは裏腹に、彼女は四つ折りにした一枚の紙を固く握りしめている。 それは、「ももへ…」と書かれた…

独りで生きる。

「あのお寿司変わってたねえ。人参太いのが丸ごと入ってるもん。」 「そやろ。干瓢と一緒に巻いてん。胡瓜の漬物丸ごと一本もあったやろ。」 晩御飯の足しにと、時々おかずを作っては持ってくる親父は86歳。 目も耳も衰えておらず、最近はカメラに凝って平日…

睨みを利かすカレーパン

遡ること4日前の日曜日。 その日、妻は所用で朝早くから外出。 「確定申告書いといて。」 の言葉に、二人分の申告書を食卓で作成していると、1時過ぎだろうか、娘が「よく寝た。」の声とともに起きてきた。 「もう昼過ぎ。お昼ご飯用意せんと。」 と話すと、…

コンパッショネートユース(CU制度)

重度の病気で他に治療法がない患者に対し、海外で承認されていて国内で未承認の医薬品を提供するする制度を「コンパッショネートユース」という。 この制度は、アメリカ、ヨーロッパ(EU)等では既に導入されており、がんなどが進行し、新薬の審査・承認を待…

高齢者が住む家

川に向かう坂の途中に、その住居はある。 大阪と神戸、その真ん中に位置するこの地に建てられた県営住宅は、築30年を超す。 復興を支え、戦後を支えた人達が住んだこの住宅も、いつしか齢を重ね、今は住人が大方70歳を超えた。 階段だけだったエントランスが…

映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

広汎性発達障害の為、高度な知能を持つが、人とのコミュニケーションがうまくとれず、奇異な行動をとる11歳の少年オスカー(トーマス・ホーン)。 少年の父(トム・ハンクス)は、その障害も含めて息子の全てを受け入れ、理解し育てようと努力する。 そんな…

映画「50/50」

2011年12月初旬、前立腺がんの転移により一人の男性患者が亡くなられた。 彼が気付いた時には、既に前立腺がんは骨にまで転移していた。 そして彼はリビングウィルを書き、何も治療をせず生きていく事を選んだ。 妻も、その子供たちも、その考えを尊重し、家…