映画「ももへの手紙」


 瀬戸内海に浮かぶ汐島。呉からこの島に向かうフェリーの甲板の上で、少女は母と一緒に周りの風景を見ているのだが、その表情はあまりにさえない。
 そんな風情とは裏腹に、彼女は四つ折りにした一枚の紙を固く握りしめている。
 それは、「ももへ…」と書かれた一枚の便箋。ただし、その先に続く文字はない。

 あの日、父へのプレゼントとして内緒で買った3枚のコンサートチケット。
 当日、父は急な仕事で出張に出かけることに。
 「もう帰ってこなくていいから。」
 怒りにまかせて放った言葉が、父との最後の言葉になるとは…

 フェリーが浮かぶ瀬戸内海の空は、青く青く澄んでいる。
 そんな空から不思議にも、一つ、二つ、三つと水の滴が落ちてくる。
 その滴が少女の髪の上で、次々に弾かれた後、甲板に落ちるのだが、不思議にも生き物のように動いていく。

 「ももへ…」と書かれた便箋の続きには何が書かれていたのだろうか。
 三つの滴は、何なのだろうか。
 ももを待つ汐島は、彼女に何を与えてくれるのだろうか。

 先に逝った人と残された人。
 別れは辛くとも、決して繋がらぬ想いはないという事を、優しい画風でこの映画は語りかけてくれます。