ある老女の死
齢90を越える老女は、早くに主人を亡くし、独りで暮らしてた。
確かに年相応の認知障害・運動障害も出てきてはいたが、金銭感覚も充分あり、食事や買い物介助で暮らす事が出来た。
若い時から自立した女性で、土地や自宅の資産もあり、現金も十分蓄えていた。
薬剤管理で自宅を訪問しながら、昔話や日常生活を聞く事で、彼女の暮らしを支える支援をしていた。
彼女には遠い身内がいた。
時折老女の家を訪ねる、そんな関係だったが、老女が歳を重ねるにつれ、介護保険の所謂キーパーソンという立場になった。
独居で暮らす患者本人に認知障害が生じた場合、成年後見人制度という問題が上がる。
彼女にも同様の問題が、本人の知らないところで進んでいた。
ある時、裁判所が状態のチェックという形で彼女の自宅を訪問し、制度の説明をした。
静かに聞いていた、そう聞いた夜から、彼女は眠らなくない、食事も摂らなくなった。
ケアマネやヘルパーさんからすぐに連絡が来て、自宅へ飛んで行った。
しかし、彼女にはもう私を認識する事が出来なくなり、中を見つめ、常に何かを語り続ける。
医師に連絡し、すぐに入院の手続きを取ったが、それから2週間後、彼女は亡くなった。
歳を重ねて暮らす時、十分な蓄えが必要である。
しかしたとえそれがあったとしても、本人の知らない制度施行では、逆に命を縮める現実もある。
医師との薬剤共同治療に邁進する事も薬剤師には必要だろう。
しかし、患者の立場に立てば、患者の思いを代弁するのは誰の仕事なのだろうか。
きっと誰の仕事でもない、関わる者全ての者に課せられた仕事の一つと私は思う。
目を背けてはならない現実、考える事に怯んではいけない現実がある。