店頭でしかわからない事・・・ネット販売について

 「あれ、ちょっと太りました?」
 ある日の朝、店頭にやって来た女性の顔が、ひと月前より確かに丸くなっている。
 「わかる?体重計に乗るとね、やっぱり太ってるのよ。でもね、食べる量は変わらないのよ。運動だっておんなじぐらい動くし。でね、夕方になると、ちょっとはましになるのよ。」
 その応えが気になって、今度はこう聞いてみた。

 「ねえ、ちょっと足首見せてくれる?」
 「いいわよ。」
 ズボンの裾をあげて見せてくれた靴下は、深く脹脛に食い込んでいる。
 明らかに浮腫んでいる。

 「前からこんなに靴下が食い込んでいたの?」
 「いえ、最近急になったのよ。」
 「お薬手帳見せてくれる?」

 受け取った手帳、最近の記載の中に気になる薬があった。
 「この薬はどうしたの?」
 「足が痛くてね。先生のそう申し上げたらこの薬が追加されたのよ。」
 「この薬を飲んでから浮腫みだしたんじゃない?」
 「そういえばそうかもしれない。ああ、そうだわ。」

 前から飲んでいる薬とこの薬、併用によって浮腫みが生じる事が多発している事が報告されている。
 
 「あのね、先生の所に行って、新しく出された薬を飲み始めてから、靴下がこんなに食い込み始めた事を話してみて。」
 「わかった。」

 数日後、街で呼びとめる声がした。あの女性だ。
「あのね、あの後すぐ先生の所に行って、お話ししたの。そしたら、前に出された薬は止めましょうって。やっぱり浮腫みだったみたいね。」

 薬局の店頭で患者さんと向き合う。
 そこで、たとえ処方箋に誤りがなくても、五感と会話を交わす事で、処方薬による副作用や相互作用を発見することがある。
 たとえ小さな薬禍でも、その一つを阻止する事が薬剤師の責務である。

 私も以前は経済学部あがりの経営者だった。
 しかし、改めて薬学部を卒業して薬剤師になって、”いのちを守る”その仕事の重要性に気付いた。
 東大教育学部卒のケンコーコムの社長にはわからない事、店頭で真摯に患者と向き合わない経営者にはわからない事がある。