前夜

 *前夜
 血行不良で紫色に腫れあがった足。その処置のために入院していた在宅患者が、新年を前に退院してきた。

 認知症のために毎食後は飲めない、一包化しないと飲めない、粉薬も飲みにくく、要介護2の独居生活者だと紹介状に記して送り出していた。

 退院したその日、様子を見に先に行っていた医師から連絡がきた。
 退院時処方が出たが、これでは飲めないからなんとかするようにと。

 すぐに訪問して驚いた。
 毎食後の薬がある。
 認知症の薬は同容量の錠剤があるが、粉薬で処方されている。
 一包化はされていない。
 どうやら、紹介状の記載には目がいかなかったらしい。

 医師から病院に、毎食後の薬は1日1回に変更する旨連絡を入れてもらい、薬は一包化し直す。

 病院で行われる医療がある。
 そこには看護師がいて、きちんと服薬介助をしてくれる。
 食事も栄養士が計画して提供してくれる。
 患者を支え、癒すための非日常がある。

 しかし彼らが戻る我が家には、時に支える手が必要であっても、差し伸べられない日常がある。
 認知症や独居を含め、戻りたかった我が家には、自分自身で暮らしを作る責任が謳われる現実がある。

 薬を窓口で渡すこと、その先で患者自身がどのような暮らしをしているか、それによっては何が必要なのか。
 それを考えれば、薬の選択も、調剤方法も、考えることはいくらでもある。
 目の前のことだけでなく、その先を考える。
 それは何も、日常の仕事だけでもあるまい。

 在宅医療も、薬薬連携も、今はまだ”前夜”なのかもしれぬ。
 患者の現実を伝えるために、今年は今までやらなかった薬剤師の前で話してみようと思った。

 さだまさしの唄う”前夜”を聞きながら、ふとそう思った。