緩和ケアと緩和医療薬学会

3月24日、東京で緩和医療薬学会の設立総会が星薬科大学で開かれました。
がん患者の苦痛を和らげる緩和ケア専門の薬剤師の養成を目的とするもので、医師や患者の相談に応じて薬のアドバイスができる薬剤師を育てるものです。
    薬事日報http://www.yakuji.co.jp/entry2600.html
現在入会者は1,000人を超える勢いだそうで、緩和ケアの知識を学ぼうとする薬剤師の意識の高さが窺えます。
実際患者様の中には、痛みを告げることを「家族に迷惑がかかる。」とか「告げることは恥ずかしい行為だ。」と思っている方がいらっしゃいます。また、誤った薬への認識や、不十分な副作用対策で痛みを耐えている患者様もいらっしゃいます。
患者様への説明の重要性を考えると、こういった学会の設立・活動は、わが国の死因第一位(31%)のガン対策に急務であるといえます。
但し、学会に入ったからマニュアル的に緩和ケアが教えられるかというとそうではありません。緩和ケアがどういうものなのか、薬剤師がどのように参加すればよいのかは、自分たち自身で考え行動すべきものです。そしてその方法の的確性について多くの方々の意見を聞くという認識が必要かと思われます。
そのための参考として、私の認識を述べてみようと思います。

  • 緩和ケア

ガン患者の苦痛についてはWHOの「全人的苦痛(トータルペイン)の概念」があります。これは、患者には

  1. 精神的苦痛(不安・恐れ・鬱・孤独感など)
  2. 身体的苦痛(痛み・息苦しさ・疲労
  3. 社会的苦痛(仕事・経済的問題・家庭の事情)
  4. スピリチュアルペイン(死への恐怖・苦しさの意味・人生の意味)

があるというものです。
この苦痛に対する認識を医療者が正しく理解し、患者自身を理解しなければケアはできません。
またがん患者の治療には、がんそのものに対する治療(Cure)とつらさや症状の緩和治療(Care)が並立して行われ、薬剤師はいまどの治療薬をどの目的で、どれくらいの量が必要なのかを認識する事が必要があります。
WHOは2002年に緩和ケアを次のように定義しました。
「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである。」
つまり、医療者は患者と上記の問題について対話(Narrative)する事が必要であり、薬剤師はオピオイドについての正確な情報を患者に伝える義務があります。

オピオイドは薬理学的用語であり、一般に使う麻薬と言う言葉は法律用語です。しかし、社会の中ではこの麻薬と言う言葉の方が良く使われ、疼痛の緩和に使っても「中毒になる」とか「命が縮まる」と言う誤解が生じています。
適切に使えば問題は起こらないことを十分説明しなければなりません。
また、それぞれが持つ薬理作用とその強さの比較は必要です。勿論、副作用としての呼吸抑制、催吐作用、せん妄等も必要でしょう。
こういった副作用と耐性難治性疼痛のために、オピオイドローテーションが必要になる事、難治性疼痛には鎮痛補助剤も考慮する事が大事です。
日本薬剤師会雑誌2007年1月号には「がんの痛みの治療」についての記事があります。
是非参考にしてください。

厚生労働省の定めた緩和ケアチームは

  1. 身体症状を担当する医師(痛み・息苦しさ・吐き気など身体症状の緩和を担当)
  2. 精神症状を担当する医師(不安や不眠、いらいらなどの精神的症状担当)
  3. 看護師

の3名が揃う事を認定条件としています。
つまり、薬剤師は入っていません。
しかし、療養病床が削減され、在宅で終末を迎える患者様が増えると、薬剤師もこういった緩和ケアへの出番は増えます。
そのための緩和医療薬学会の設立です。しっかりとした活動が行われることを期待します。。
   日本緩和医療薬学会のご案内
   http://square.umin.ac.jp/eshp/kannwairyoukai/annai.pdf