心の声(老人性鬱症状)

”酸素飽和度97%、血圧137/87、左足に軽い浮腫、皮膚は潤いがあり、心音正常、食事もちゃんと摂れている。右下腿から膝にかけて放散痛あるも、現在の健康状態はまず良好と考えられる。”
 これが、私が現在居宅療養管理指導を行っている一人の患者様の医学的所見です。
 しかし、「息苦しくてしんどいです。足にも力が入らないのです。」と、患者様は辛そうに天を仰ぎながら語ってくれます。
 奥様が入院されて半年が過ぎ、子供達も離れて一人暮らし。話す相手もおらず、1日中家にこもりきり、四季の移り変わりさえ興味が無く、顔の表情にも変化が乏しくなりました。明らかに”ひきこもり”であり、これが”老人性うつ”の典型的症状です。
 最近、在宅医療を行っている患者様に独居の老人の方が増えてきました。二世帯住宅も増えてはいるのでしょうが、やはり核家族化の現実を医療の現場では率直に感じます。
 80歳を超えて一人暮らしのできる患者様は、介護保険では要介護1や要支援2の場合が多く、家事介護を行ってくださるヘルパーの滞在時間は、長くて2時間が限度です。それ以外は誰も話し相手はないのです。夜になると不安にかられて血圧が上昇し、毎夜私の薬局にTELされる方、ありもしない物が見えておびえてTELされる方、寝ている間にどうかなるのではないかと心配で眠れなくなる方など、医学的には健常であっても心が悲鳴を上げている、その結果が身体症状として現れていると思えてなりません。
 ”鬱”は薬も必要ですが、薬よりも他者と会話をすることが最善の治療法です。
 医療者としてある所で線を引く、それが患者の自立を促す善き手段かもしれません。しかし、持参する薬があろうとなかろうと、それがFeeになろうとなるまいと、空いている時間は患者様の自宅に出向いて話をする、私はそんな在宅医療をしています。