臨床研修医制度の問題点

 2004年4月から「臨床研修医制度」が必修化されました。これは昭和21年に導入されたインターン制度が、昭和43年公布施行された改正医師法によって廃止され、更にこの医師法が改正されてできたものです。
 改正前の医師法では「医師は、免許を受けた後も、2年以上大学の医学部若しくは大学付置の研究所の付属施設である病院または厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を行うように努めるものとする。」という努力義務規定でした。
 しかし、臨床研修医制度では、「診療に従事しようとする医師は、2年以上医学を履修する課程を置く大学に付属する病院または厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならない。」という義務規定に変わっています。
 この制度の基本理念は、「臨床研修は、医師が、医師としての人格を涵養し、将来専門とする分野に関わらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷または疾病に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的な診察能力(態度・技能・知識)を身に付ける事のできるものでなければならない。」とされています。つまり、研修医に一つの専門分野にとどまらず色々な科を経験させ、医療の質を確保しようというものであり、更に医局制度の弊害を除いて人事を活発化させるなどを目的としたものなのです。
 さて、この制度が施行されて実際どうなったのでしょうか。新人医師は全国の研修病院を自由に選択できるようになり、地方の大学病院より都心の有名病院を選択するようになりました。”崩壊する日本の医療:鈴木厚著(秀和システム)”によると、例えば、聖路加国際病院国立国際医療センターなどは研修医の募集定員の10倍以上の申し込みがあり、逆に東北大学病院での研修を希望した同大学卒業生は3人、名古屋大学医学部では2人だけだそうです。かつては卒業した大学の付属病院で研修を受けることが普通で、約7割の新人医師が大学病院で研修を受けていたものが、今は大学病院での研修を受ける医師が減ってきてしまっているのです。
   ポケット解説 崩壊する日本の医療 (Shuwasystem Pocket Guide Book)
 結果、大学病院で研修医という医師が不足した為、医局から関連病院に出向させていた医師の引き上げが起こりました。そうすると関連病院の医師は激減します。残された医師は不足分をカバーする為、労働時間を延長せざるを得ません。当直明けも引き続いて勤務する36時間勤務も当たり前の世界になっているのです。こんな状態では勤務する医師も辞めていくのは当たり前です。近頃地方の病院で、色々な診療科の閉鎖が起こっているのはこれが一因です。
 良い教育制度を作ることは、医療・医学の世界で必要です。しかし、いまある制度を改変する事でどのような結果を生むのかを考える事が重要で、現場を知らずに行う”上からの指導”には意味がありません。より良き制度にする為に多くの声を聞くことが大切なのです。