チェーン薬局と個人薬局

 日経DI7月号に2006年上場薬局の決算報告が掲載されています。これによると、大手チェーン薬局8社は売上高は前年度を上回ったものの、営業利益はクラフトやメディカル一光の2社を除き減益となっています。しかし逆に日経新聞7月5日掲載記事では、2007年度業績は売上高増・経常利益増になる予定だそうです。その理由は、M&Aで中小の調剤薬局を傘下におさめる動きの活発化・後発医薬品の自社製造などによるものと考えられています。
 中小の調剤薬局はどうかというと、やはり2006年4月に行なわれた調剤報酬の引き下げや薬価の大幅引き下げの影響で業績は伸びていません。
 さて先日7月8日、神戸薬科大学リカレントセミナー「薬歴の書き方」の講習会に参加し、講師として大手調剤薬局アインファーマシーズ阪神調剤の薬剤師研修担当の薬剤師の方が来られ、それぞれの会社で行なわれているPOSやケア計画の立て方を説明されました。また実際の薬歴を基に、実症例からケア計画を立てる演習もしました。これら大手の調剤薬局で使われている実物の薬歴はSOAPで書かれており、その感想としてはやはり大手調剤薬局の服薬指導教育は充実しており、見習うべきものであると感じました。ただ、実際勤務する薬剤師はこういった服薬研修を現場でどのような意識で利用しているのか、聞いてみたいものだなとも感じました。
 都市周辺の、所謂ベッドタウンで開業する医療機関(診療所・調剤薬局など)は、基本的にはそこに住む患者様を対象としています。つまりそこで生まれ・育ち・暮らし・亡くなられる方と共に歩み、医療を提供するのが使命だと感じています。だからこそ、その地域で患者様の目線と同じ目線で暮らし・生きる事を感じなければなりません。在宅患者や赤ちゃんなど状態が急変する患者様、緊急で医療を必要とされる患者様に、休日・時間を問わず最適な医薬品供給をする事が地域の薬局の使命なのです。個人の薬局経営者にはそんな想いがあります。チェーン薬局とは一線を画し、地域に密着した医療に特化するのもそれが理由です。
 従って新規出店などはなかなか出来ません。多くの店を持つ事で満足した医薬品の提供が出来ないからです。結果、調剤報酬のダウンにより経営は悪化します。より良い医療を目指そうとする個人の薬局が疲弊してきています。この7月、私自身が尊敬できる薬剤師が末日を持って薬局を廃業します。どんな理由かはわかりません。しかし、登録販売者制度が出来、OTCも一部を除きコンビにでも買える様になる時代が来るわけですから、薬局の将来はバラ色ではありません。
   くまがい薬局http://kumagaip.jp/(ブログ:薬局のオモテとウラhttp://blog.kumagaip.jp/
 新規出店の薬局経営を見ていると、これはひどいなと感じるものもあります。例えば基準調剤加算2があります。門前ではなく面分業を図る目的で、特定の医療機関からの処方箋集中率70%以下(他にも基準がありますが・・・)なら処方箋受付時に30点(300円)を加算しても良いというものです。この制度を利用して建設会社と医療コンサルタント・チェーン調剤薬局がチームを組み、診療所が3軒以上入れる医療ビルを建てます。1階には調剤薬局が入ります。ビルに医療機関が入ると処方箋集中率は必然的に70%以下になり、処方箋1枚あたり30点が加算されます。1日50枚処方箋を受けるだけで15000円、1ヶ月25日で375000円の収入となります。現在は医師の開業ラッシュですからこのビジネスモデルは成り立ち、医療ビルやモールと呼ばれるものが流行っているのです。しかし、これが基準調剤加算がの本来意図する面分業なのでしょうか。患者様の目的に合ったものなのでしょうか。
 在宅医療でも感じる事があります。規模が大きいチェーン薬局では、IVHなども自前のクリーンルームで作るなど、その装置・調剤技術には眼を見張るものがあります。そして老健施設などにはくまなく廻られています。しかし一方、独居老人への在宅医療には驚くほど参加していません。理由はわかりません。
 私は、医療が持っている本来の目的には、現在のチェーン化がふさわしいとは思っていません。利益を追求しなければならない上場企業が、医療の持つ”個々の患者の立場にたつ”という理念を引き継ぐとは思えないからです。それは、介護の世界でコムスンがしたことが良い例ではないでしょうか。しかし最初に述べた様に、チェーンには個人には出来ない良い面もあります。でも個人店にしかできない事も多々あります。
 競争を問われる社会となり、規模の大きさが生き残る術となってきました。小さな薬局は存続する事がつらい時代です。しかし、より良い医療を育む為には個人の薬剤師・薬局が必要で無くなったわけではありません。その個人が行なう仕事・存在の意義を、制度として評価する報酬制度があれば、地域に密着した個人薬局が存続できるのではないでしょうか。但しその為には、個人の薬剤師にも”何かを犠牲にする覚悟”が必要だとは思いますが・・・