認知症…その2

参考文献:『知っておきたい認知症の基本』川畑信也著:集英社新書
1)アルツハイマー
 その1でも記したように、認知症アルツハイマー病ではありません。確かに認知症の中で一番多い疾患ではありますが、認知症の内の一つに過ぎません。コリン作動性神経細胞の脱落が見られ、その為に脳溝や脳室は拡大し脳は萎縮します。更に脳にはアミロイドβが沈着した老人斑が見られます。
 アルツハイマーを診断するには、”物忘れ”は必須で、さらに計算障害・見当識障害・失行症等の内一つ以上の障害が伴います。早期徴候としては、記憶障害・時間に対する見当識障害・易怒性・意欲減退などの感情障害が挙げられます。そしてこの疾患は必ず進行していくという悲しい現実があります。今の医療では、進行は遅らせても、治癒させることはできません。
 他の認知症と区別する方法として、”物が盗まれる”という妄想が挙げられます。この妄想は、アルツハイマー独特のもののようです。私が行く在宅患者さんの中にも、しばしばこのような発言をされる方がいます。
2)脳血管性認知症
 認知症の中で2番目に多い原因疾患が脳血管性認知症です。脳梗塞脳出血など脳血管障害が原因の認知症を総じてこう称します。思考がゆっくりしているだけで、アルツハイマーとは違って、時間をかければいろいろなことができるそうです。従って、梗塞や塞栓に対する薬を服用することで、認知症を予防することは可能です。
-治療
 認知症を治療する薬は、国内では”アリセプト”(塩酸ドネペジル)しかありません。これは、アルツハイマー病におけるコリン作動性神経細胞の脱落によるアセチルコリンの減少を、このアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害することで食い止めようとするものです。しかし、コリン作動性神経細胞の脱落をとめる働きではないので、アルツハイマー病を治す薬ではなく、進行を遅らせる薬だと認識しなければなりません。また、個人によって効果の違いもあるので、実際に効果があるかは、服用してみなければわからないといえそうです。海外では他の薬も発売されていますが、日本人の臨床検査ではそれらの薬の効果が見られてい無いようです。(ドラッグラグが問題になっていますが、民族の遺伝子の違いで効果はこのように変わるのです。”海外で販売されている薬なら何でも国内で使えるようにしよう。”という意見に疑問を抱くのはこのような例が実際にあるからなのです。)
 認知症の進行を食い止めるには、早期発見しかありません。しかし、初期には認知症なのか、ただの健忘症なのか、うつ病なのか診断するのは非常に難しいものです。精神科・神経内科脳神経外科などの医師が診断するのですが、その中でも認知症の専門医は国内には多くありません。その理由の一つが、患者を診断・治療する時間・労力に比べて、対価とする医療費が非常に少ない点が挙げられます。
 高齢化で認知症患者が必然的に増える今日、道路を作る費用を削減して医療費に少し回せば、それだけでどれほどの患者や家族が安心できるのか、5年間で1兆1000億円の医療費を削減している場合ではないと思いますが、それはまた別の場で記してみたいと思います。