チーム医療

 薬局薬剤師である私が行っている在宅医療では、患者さまを中心として、複数の医療・介護職種が関り合いながら医療・介護を行っています。これはある意味”チーム医療”という言葉で表わされるかもしれません。しかし、実は”チーム医療”といっても、そこには明確な定義があるわけではありません。病院や在宅医療など個々の現場で実践されている”チーム医療”は多種多様なのです。
 先日、”「チーム医療」の理念と現実”という本を読みました。
 「チーム医療」の理念と現実:細田満和子著(日本看護協会出版会)「チーム医療」の理念と現実―看護に生かす医療社会学からのアプローチ (Nursing Today Collection)
 医療社会学者である細田氏は、フィールドワーク(病院や診療所など)や各医療職種が作った文書資料を丹念に分析処理することで、チーム医療の理念と現実を書き記しています。
 この本によると、医療従事者が考える「チーム医療」を”患者に関わる全ての医療従事者が、「専門職」として対等な立場に立ち、互いに協力しながら治療にあたっていると実感したときに、「チーム医療」ができたと表現されているようだ。この事から、彼らにとっての「チーム医療」とは、専門的な知識や技術を有する複数の医療従事者同士が、対等な立場にあるという認識を持った上で実現される協働的な行為と暫定的に定義することができよう。”と記してあります。
 現在医療が高度細分化される中、多くの医療職種が生まれました。既存の看護師や薬剤師ばかりでなく、理学療法士作業療法士言語聴覚士など多種の国家資格者が医療の中で働いています。これは、今まで医師・疾患中心主義から患者・問題中心主義へと医療が変革しているからでもあります。病院内でこれ以上の治療が進まなくても、残された命をリハビリを続けることで悪化させない、或いは病院ではなく在宅で過ごすなど、患者自身の願う生き方が医療に反映してきたかもしれません。確かに医師によるパターナリズムから患者の権利、QOLやNBMを重視する医療が進んできました。その中で、患者を中心とした同心円に各職種が連携する姿を「チーム医療」として認識することが分かりやすいアプローチだと思います。
 では現実はどうでしょうか。実は病院の理事長や診療所の開設者は医師であることが法律で定められており、職務上常に他職種は医師の管理下にあります。また、専門事項についても、保健師助産師看護師法理学療法士及び作業療養士法など法によって、業務の遂行にあたって「医師の指示」を必要とすることが定められています。つまり、医師を頂点とするヒエラルキー(階層性)が現実には存在しているのです。これでは、多くの医療職種が医師の顔色を窺いながら職務を遂行することになり、望んでいる「チーム医療」ははるか遠いものとなります。
 それではどうすれば「チーム医療」は成り立つのでしょうか。それは私は、チーム医療に患者自身が参画していくことだと思っています。患者自身は常に、自分に関わっている医療従事者が自分に一番良い医療を行っていくために連携していると信じています。その中でその患者に最も適当な医療を提供する職種も、その患者の状況によって異なることは当たり前です。いま自分自身が必要としている医療をケアを患者自身が声を大きく発言し、そこに医師でない職種が上がること、それを医師自らが理解したとき初めて細田氏が定義した「チーム医療」が実現するのではないでしょうか。
 そして、チーム医療が成立するために、まず医師以外の医療職種・コメディカルが、患者自身に必要な専門的知識や技術を持ち、それを医師や他のコメディカルも認知し、信頼を築くことがチーム医療実現への一歩なのではないでしょうか。