T−705

 以前インフルエンザ治療薬で新型タイプが臨床試験に入ったことを記事にしました。
     http://d.hatena.ne.jp/tomoworkaholic/20070123/1174269855
 現在インフルエンザ治療薬には、タミフルリレンザシンメトレルがあります。
 このうち、シンメトレル(アマンタジン)は細胞内に入ったウィルスが必要とするM2タンパクを抑える薬理作用が認められていますが、耐性ができやすい点と副作用が問題視され、あまり使われていません。
 タミフルリレンザは、細胞内に入って増殖をしたウィルスが細胞外に出るためのNA(ノイラミニダーゼ)を阻害する事で増殖を防ぐ働きがありますが、感染後48時間以内の服用が必要で、さらに近頃ではタミフル耐性ウィルスの出現が確認されており、今後従来の効果が期待できるかどうかは疑問視され始めています。
 さて本年1月から第2相臨床試験が開始された、富山化学のインフルエンザ治療薬T-705は、その薬理作用が特異的です。
 オルソミクソウィルス科のインフルエンザウィルスは、RNAウィルスと呼ばれ、ウィルスの粒子内に−鎖RNAと自己のRNAポリメラーゼを持っています。人の細胞内に吸着・侵入したインフルエンザウィルスは、脱殻後親−鎖RNAから自己のRNAポリメラーゼによって+鎖RNA(m−RNA)が作られ、ここから人の細胞内の機構を使って初期蛋白質・後期蛋白質に翻訳され、子ウィルスが作られます。新薬T-705はこのウィルス独自のRNAポリメラーゼの働きを阻害するため、増殖過程そのものを抑制することになり、タミフルリレンザのように48時間以内の服用は必要なくなります。
 来シーズンのインフルエンザ流行時期には、第3相臨床試験(フェーズ3)が始まる予定だそうで、パンデミックが心配される中、期待されるインフルエンザ治療薬が生まれるまであとわずかなようです。