OTCネット販売規制

 8月になって、各都道府県単位で登録販売者試験が開始されています。
 これは、昭和35年に制定された薬事法が、平成18年実に49年ぶりに改正された法律第69号「薬事法の一部を改正する法律。」により始まった制度です。
 この改正では、現行でのいわゆる”大衆薬”(一般用医薬品)の販売に際して、十分な情報提供がなされておらず、特によりリスクが高い一般用医薬品についての情報提供がなされていない事、また医薬品の販売が対面販売の原則があるにもかかわらず、適切な相談応需がなされていないことから、

  1. リスクの程度に応じた情報提供と相談体制の整備
  2. 一般用医薬品の販売を担う新たな専門家”登録販売者”制度の構築
  3. 適切な情報提供及び相談対応の為の環境整備

がなされました。
 こういった改革により、患者様と医療職種との対話・会話を通じて正確で詳細な健康知識が伝わり、消費者の健康を守る体制が築かれることは喜ばしいことだと思います。
 また、薬局・薬店・ドラッグだけでなく、スーパーやコンビニ、○○電気までもが登録販売者を置けばOTCを販売できることは、緊急時に必要な医薬品の購入や利便性にも有効だと思います。
 しかし、今回厚生労働省OTCのネット販売については第3分類のOTCまでと決めました。これに対し、日本経済新聞8月24日の「けいざい解読」に編集委員:大林尚氏の署名記事として、”対面販売でなければ副作用情報などが伝わらず、安全が損なわれる恐れがあるという論法だ。医師の処方薬やそれに類する薬を買うときは薬剤師などの助言が必要だ。しかし市販薬のネット購入はかなり浸透している。買えなくなる薬が増えることで不便を強いられるのは消費者だ。ネット販売でも安全を高めるやり方を工夫できるという関連業界の声を、同省はほぼ黙殺している”と書かれました。
 登録販売者は2類からのOTC(市販薬)を販売ことができます。2類にはどのような薬があるかご存知でしょうか。漢方薬も入っていますし、鎮痛薬・総合感冒薬・消化薬も入っています。そして、これらには時として重大な副作用も生じますし、他の薬や食品との相互作用もあります。その事を登録販売者は勉強し、今回の試験でも問われているのです。その知識を持って彼らは患者様と向き合い、販売を行います。そしてその患者様との対話の中で、副作用の発現や相互作用の有無に”気づく”事になります。これが薬の販売者としての”専門性”です。薬剤師はこれまで患者様との対面販売の中でこれを学んできました。登録販売者の方にもこの”気づき”を学んで頂きたいし、きっと患者様の対話の中で知ることができると思います。
 ネット販売でこのような対話ができるのでしょうか。私たち医療職が売るのは患者様が必要とする”安全性”がメインであって、パソコンで会話もせずに買える”利便性”ではないはずです。そのために、薬事法は改正されたのです。
 経済において、利便性は販売利益を生む為の有効な対策です。しかし、日本経済新聞社自らが本をも出版している”企業の社会的責任(CSR)"について、利便性は重要なのでしょうか。改革という美名のもとに、安全と安心の確保にまで口をはさむのは経済の偽善です。