その桜は、阪神大震災で倒れた。
もう花は咲かず、朽ち果てるのだと思っていた。
当時、私はボーイスカウトのリーダーをやっていた。
一人のローバースカウト(大学生)が、この川の上流で家族とともに地滑りにあい、埋まった土砂の中の自宅から遺体となって発見された。
季節は巡る。
倒れた桜を、住民達が写真にあるように木で支えた。
その桜がこうして花を咲かせる。
”支え”があれば、そしていくつかの幸運があれば、桜も再び息を吹き返す。
この写真の川のもう少し先、認知症を抱えた老女が独りで暮らしている。
彼女に薬を届けるため、たわいもない話を交わすために、今日も独り自転車をこぐ。