流動性の罠

 8月になって、米国信託保管銀行大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)が、大口法人顧客に対して、預金手数料の徴収に踏み切った事をご存じだろうか。
 預金する事に手数料がかかるのである。
 「えー、なぜお金預けるのに手数料がかかるの?」
 と、思われるだろう。

 不況にあえぐ米国では、消費者・大口投資家・企業に新規投資をさせる為に金利を下げる。しかし、消費者も企業も、経済の弱体化を予想し、消費者が消費をせず、企業が投資を控える。
 金利が“ゼロ”に極めて近くなると、資金を現金で保有しようが、国債の様な利付投資で保有しようが、コストに違いはない。その上での国債に対する信用度が低下すれば、誰でも現金で持とうとする。
 かくして、中央銀行市中銀行に通貨を供給しても、もう金利は下がらないし、利息を生まない銀行準備金が増えるだけで、新たな融資・投資には資金が回らない。
 さらに米財務省証券(TB)が格付けで信用性が落ちた時、一気に押し寄せるであろう資金の流れを防ぐために、手数料徴収に踏み切ったのだ。

 こういった状況を英国経済学者:ケインズは、「流動性の罠」とよんだ。

 すでにこうした事態は1990年代末、わが国で発生しており、その状態から抜け出せずデフレが続いている。

 「流動性の罠」が発生すれば、二つの点で問題が発生する。
 一つは、投資をせず現金で資金を保有する事によって、経済が縮小する。
 もう一つは、中央銀行の金融政策の効力を無効にする。金利はゼロ以下には出来ない。紙幣を増刷して債券を買っても、利子を生まない銀行準備金が増えるだけになり、新規投資には資金がいかない。

 そう、デフレが続いていくのである。

 では逃れる術はあるのだろうか?
 一つは国による財政出動だろうし、後はドル安政策か、インフレ容認だろう。
 しかし、どれも簡単なものではない。

 「アメリカ経済の日本化」と呼ぶ人もいるが、本家の日本がどうするのか、震災復興特需を成長につなげる方策なしには、デフレ脱却は難しい。
 「ミクロの楽観、マクロの悲観」と呼ばれる我が国の現況は、現状では決して憂うるものではない。
 しかし円の独歩高が続き、増税策でも打ち出せば、必ず企業は海外に出る。
 そうすれば、雇用も、国内需要も必ず低下する。
 現実を考えれば、医療も漫然としている場合ではない。

 薬剤師もリアルの世界に目を向けなければならない