タミフルにみる報道の公正性

今私の住む地区ではインフルエンザの流行がピークに達し、毎日夜9時過ぎまで多くの患者様にタミフルリレンザをお渡ししています。ただこのピークもあと1〜2週間で終息する事が予測され、今年のインフルエンザも終わりを告げることになりそうです。
2月末、タミフル服用による自殺・異常行動の報道がなされ、タミフル原因説が問われました。
私の薬局では、この報道の直後より、タミフルが原因かどうかは不明である事・インフルエンザ脳症というものがあることを患者様に伝え、また厚生労働省よりの通達以降、インフルエンザ感染後2日間は家庭で感染したお子様を見守るよう依頼してきました。結果、今日現在異常行動などの問い合わせは無く、子供達は無事に治癒しており、薬剤師として嬉しく思っています。
初期の報道から約2週間が経ち、報道内容も落ち着いて中立的立場をとるようになり、その内容も密度の濃いものとなってきています。それらからもう一度、今わかる範囲でのインフルエンザ感染後の異常行動の事・必要性の有無を疑問とする報道内容について書いてみたいと思います。
3月14日、「報道ステーション」にて”タミフル効果と副作用”の特集がなされました。その内容は

  1. 実際に異常行動をおこした子供達の生の声でした。やはり、幻聴が聞こえると同時に気遣う周囲の家族の声が聞こえなかった事・とった行動も無意識の中で起こっていた事がわかりました。
  2. 1997.10月世界で初めてインフルエンザ脳症の報告をされた札幌市立大・富樫武弘教授(日本小児科医会常務理事)より、「異常行動が全てインフルエンザ脳症によるものではない」との話がありました。一般にインフルエンザ脳症は6歳未満に多く、年間100人〜300人が罹り、長期の意識障害を起こしているのに対し、今回の異常行動が10歳前後に多く、一時的な異常行動で終わっていることをあげています。確かに、異常行動はインフルエンザ脳炎だけでなく、熱せん妄によることもあります。勿論その他の理由も考えられる事と思います。(インフルエンザ脳症http://hobab.fc2web.com/sub4-influenza-encephalopathy.htm
  3. 国立病院機構三重病院小児科中野貴司医師より「タミフルと異常行動の関連性」についての報告がありました。2005〜2006年にインフルエンザで入院した50人の内、異常行動(幻覚・幻聴)で入院した患者が男9人・女5人の計14人(平均年齢7.5歳)。その内、タミフル服用後の異常行動が8人・服用が6人います。つまり、タミフル服用の有無に関わらず、異常行動は半分近く起こっているわけです。また、8人のタミフル服用者のうち、1回目で異常行動をおこした患者が7人。しかし、その患者も2回目のタミフル服用後は6人が異常行動を起こしていないのです。つまり、薬剤が原因なら起こるであろう再現性がないことが指摘されています。中野医師は「異常行動はインフルエンザそのものがベースになっている、それにタミフル服用時に併用した薬剤との関連もあるのではないか。」と述べられています。

今回のこの報道は結局「タミフルが原因かどうかは実際現状ではわからない。」ことを指摘していました。特集の最後にキャスターが言った「みなさん、異常行動の原因がタミフルかどうかは今のところはわからない。白か黒かをはっきり言えなくて申し訳ない。」が事実なのです。そして大事なのは、現状では「白か黒かをはっきりさせる事」なのではありません。「わからない。」事が重要なのです。事実の裏づけの無い結論じみた「そうかもしれない」事を報道する事ではなく、掛け値なしに「今はわからない」事を素直に報道する事が、報道の公正さを示す基準なのです。その事実の基に、医療の現場では患者様に今そこにある正確な情報を提供しているのですから。
追記
3月14日朝日新聞夕刊に、厚生労働省インフルエンザ研究班の二人(タミフルと異常行動の因果関係を否定した班)の研究員に中外製薬タミフル販売元)から計1千万の寄付金があった事が報道されています。普通に読むと、金を貰ったから否定したように見えます。でも、製薬会社から治療薬の研究の為の寄付は中外製薬に限らず多くの企業でも行われています。研究機関は資金が実に不足しているのですから。もし報道するのなら、こういった事実も併記する事が公正さを示すことになると思います。公正さを欠く報道は、偏った方向性を導くものです。