”棄てられるがん患者”を作らない為に・・・

AERA2007年5月14日号にこんな記事が掲載されています。
”棄てられるがん患者”・・・「家で最期を」理想と現実
厚生労働省は先日もこのBlogで書いたように、医療費削減の為療養病床を2011年まで38万床から15万床に減らそうとしています。また、平均入院日数も減らそうとしています。
参考http://d.hatena.ne.jp/tomoworkaholic/20070225
そこで病院から退去させられる患者の受け皿として、診療所などの開業医に「在宅医療」を充実させようと、24時間体制で往診や看護に応じる開業医の診療報酬を2008年度から引き上げる方針だそうです。
日本経済新聞4月30日朝刊http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S2900B%2029042007&g=MH&d=20070430
さらに記事によると、外来患者の診療に頼って在宅医療に取り組まない開業医の診療報酬は押さえ込むといいます。
昨年、在宅医療を担う開業医に「在宅医療支援診療所」認定制度を導入したものの、24時間対応など認定の敷居が高すぎた為、開業医の申請が1割にしかならなかった事が背景にあるのでしょう。
政府は2011年までに社会保障費を1兆6千億円抑制する目標をたてていますから、その為の一政策ではあります。
また、同日「総合科」を新設という記事も出ました。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S3000I%2030042007&g=E3&d=20070430
開業医にこの科を標榜させ、患者の必要な時に病院の専門医に紹介するするこの制度は、厚労省が以前から必要と言い続けていた「かかりつけ医」とイギリスの「ホームドクター」制度を類推させ、医療費の抑制を図ると共に患者の「フリーアクセス」を阻む方向を示唆しているのかもしれません。
後発医薬品使用を推進する為の「処方箋様式の変更」案も含め、厚生労働省は矢継ぎ早に医療費抑制案をしかけているようにみえます。

しかし、そのような政策を採ることで現実はどうなっているのでしょう。
AERAの記事にあるように、急性期治療・硬度先進医療を行う病院では、回復の見込みの無い患者をベッドにおいておく事に意味は無いのかもしれません。それは経営的に見ても、治療を行い短期で退院させるほど診療報酬は手厚くなっている事からもいえます。
しかし、そこにあるのは患者一人一人の「いのち」です。この世に「存在」している「いのち」です。
残された時間をどのように使うのか、それは患者一人一人の生き方であり、誰もが尊重すべきものです。決して早くベッドを空けさせる為には、無視して良いというものではないのです。
病院と地域の診療所との「病診連携」さえできず、訪問看護ステーションとの連絡もされていない、そんな状況で病院を強制的に退院させる「がん難民」を作ってはなりません。
在宅を行う開業医に診療報酬を手厚くすれば、おそらく在宅医療は進むでしょう。しかし、ただ単に報酬を得たいが為の開業医も同様に増えるでしょう。
本当に終末期を迎える患者の「生き方を肯定する」為の在宅医療が進んで欲しい、その為の方策は必ずあると信じて疑いません。