先発医薬品は患者負担

2007年5月13日付けの日本経済新聞の一面を見てビックリしてしまいました。

医療保険、後発薬普及へ見直し・政府検討
 政府は先発医薬品(新薬)と効果が同じで価格が安い後発医薬品の普及を促すため、医薬品に対する公的医療保険の適用範囲を見直す検討に入った。保険給付でカバーする金額を後発薬を基準に設定し、あえて割高な先発医薬品を選んだ場合は患者の自己負担が増える仕組みとする。薬の選択でのコスト意識を高めて医療費を抑える狙いで、これにより薬剤費を1兆円近く削減できると見込んでいる。
 日本で処方されている薬のうち30―40%では先発薬と後発薬が併存している。後発薬の価格は先発薬のおおむね半分程度とされるが、効用や価格についての理解が道半ばで、先発薬が提供されるケースが多い。薬剤費が年間7兆円まで膨らむ中で、公的負担削減のためには後発薬の普及が急務になっている。 (07:00)

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070513AT3S0201J12052007.html
以前にも書いたように、世界レベルでの後発医薬品の数量ベースでのシェアは米国で56%、英国55.4%、独国41%で、日本は16%です。
http://d.hatena.ne.jp/tomoworkaholic/20070422
確かにわが国の後発医薬品普及率は低いですが、米国ではこの普及の為に30年を費やして国民全体に後発医薬品を啓蒙し、使用の為にオレンジブックを作成し、後発医薬品にもランク付けをし、また代替医療も取り入れた経緯があります。他国も同様に様々な政策を打っています。
しかし、そんな環境整備をする事もなく、先日は”処方箋の後発品変更可の処方様式を変更する”との発表がなされました。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070422ik01.htm
当然医師会は反対し、出てきたのが今回の”先発品を使うなら、その後発品の薬価の7割は保険で負担するが、残りは患者が負担する”というものです。
しかし、医療には厳然と「情報の非対称性」があります。
患者がどんなに自分の疾患について勉強しようとも、自分に必要な治療についての医師との知識の差は歴然としてあり、それ故医療の基本は患者が医師を信頼する事なのです。そこで選ばれた薬が先発品だったとして、患者に後発品に替える知識があるのでしょうか。
何も言えない患者に医療費減の負担を押し付けるのは、あまりにもひどいのではないでしょうか。
現実に、後発品に変更して失敗した例を示します。私の薬局で患者様の後発品変更の求めに応じ、Ca拮抗剤を変更した例が2例あります。しかし、次回先発品に戻りました。理由をお尋ねすると、患者様はお二人とも血圧が上がったと言われました。もし、今回の新聞記事のような変更がなされると、これでも先発品にした事で患者負担増が起こります。
後発品と先発品の用法・効果が同じであっても、実際使用してみると効果が異なる事は現場ではあるのです。まず、これを厚生労働省は認めるべきです。現場と同じ概念を持った時に初めて、政策の意義が生まれると思います。
昨年決めた歳出入一体改革の中で、政府は社会保障費全体で1.6兆円の削減を決定しました。年金・介護・医療の中で、特に医療に削減をかけ、今回の後発品普及で約1兆円の減を目指しています。しかし同時に画期的新薬についてはより高い薬価をつけることを、政府の規制改革委員会で決めています。
超高齢社会の出現のために医療費を削減するといい、かたや新薬の薬価は上げるという・・・勿論、先発品使用制限による製薬企業の収入減を防止するという意図はあるとしても、このような政策については疑問を感じざるを得ないのではないでしょうか。
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