医薬分業と後発医薬品

 先日、「医薬分業と後発医薬品の普及、推進における薬剤師の役割」という題で、日本保険薬局協会会長 三津原博氏のお話を聞きました。 
 三津原氏といえば、大手チェーン薬局日本調剤株式会社の社長。医薬分業の黎明期から現在までを知り抜いておられる方で、当初分業依頼で1日に約10件診療所に訪問されていた頃は、塩や水をまかれたこともあったとか。それが現在、医薬分業率は全国平均56.8%、日本調剤の経営する薬局もも今は殆どが官公立の病院前にあるとの事です。しかし、医療において調剤薬局が目指すべきは面分業です。その面分業、現在は全国的には約10%、90%が点分業です。面分業に出来ない理由が薬の在庫。原則通りの面分業をするには、備蓄品目約13000品目が必要になります。しかし1店でこれだけの在庫を持つ事は無理な話です。しかし面分業を可能にするのが「一般名処方」「代替調剤」で、試算すると先発品1500品目とジェネリック300〜400品目でできるそうです。勿論ジェネリックを推進すると処方箋単価が約20%即ち売り上げが20%下がり、さらに後期高齢者の医療制度で”まるめ”などが実施されると売り上げが最悪30%に下がります。それでも面分業を推進する事で、調剤薬局の淘汰が行なわれば、生き残りが出来ると三津原氏は述べておられました。

  • 経営者として思う事 

 三津原氏は”常に最悪の状況を想定して経営を考える”そうで、これには同じ想いを感じました。”最悪の状況が生じても生き残るには何をすべきか、職場のモチベーションを下げずにコストカットすべきはどこなのか、経営者は常に考えています。さらに、今の医療環境を考え、ジェネリックを作る会社を作ったのは素晴らしい。厚生労働省の構想に合致するし、自分の薬局で自分の製薬会社の薬を使えば、利益は自分の中で還元します。経営者としてはある意味評価に値する方だと感じます。
 ところが、個人の薬局と上場企業の違う点は、株主への利潤の還元があります。上場企業の経営者に課せられた株主保護、株主への利潤還元の義務は重く、経営者は企業は利益を生み出す事が最も重要と考えなければならなくなります。しかし、医療の世界において企業の利益が最も重要でしょうか。個人薬局の経営者の私から見ると、最も重要なのは患者様の状態であり、企業は適正な利潤さえ得られればそれで良いと考えます。勿論、経済環境は政府や厚労省の制度変更一つで激変します。今の状態がそのまま続くわけはありません。だからこそ、経営に関する情報や知識を集め、健全な経営環境を作らなければならないわけで、それは経営者の当たり前の仕事です。利潤志向と理念志向、異なる舵を使い分けるのは大変です。

  • 薬剤師として思う事

 三津原氏はかねてから”FAX処方箋廃止”を唱えています。今回もその理由を話されていました。それは”FAX処方箋”だとFAXが送られた時点で調剤が行なわれる為、ジェネリックに変更など出来ないというものでした。しかし、患者さまの立場に立つとどうでしょう。病院の門前で待つのがいや、行き慣れた”かかりつけ薬局”で相互作用を見てもらいながら薬を受け取りたいと願う患者さまの想いに合致するでしょうか。
 ジェネリックへの変更は急ぎさえしなければ、地元に帰ってからの調剤で可能です。患者様の意志の確認と後発品への変更にとられる時間より、患者様と対話する事の方が大事なはずです。
 
 どうあれ、来年から医療改革は進み、薬局をめぐる環境も激変します。厚生労働省の企画官のお話を聞けば、これは事実だと感じざるを得ません。最悪のシナリオを想定しながら、経営のたずなを操らねばなりません。

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医療の限界 (新潮新書)
 現在現役の虎ノ門病院泌尿器科部長である小松氏は、名著”医療崩壊立ち去り型サボタージュ」とは何か”を書かれており、今回の本でもわが国の抱える医療の問題点を浮き彫りにし、どうすればよいのかを書かれています。
特に、競争主義を日本に取り入れたときの問題点、アメリカの競争社会の抱える現状と育まれた歴史をピューリタン革命からわかりやすく説明された文章は圧巻です。
 是非、ご一読を・・・・