ワーキングプア−日本を蝕む病

 NHKで放映されていたドキュメント“ワーキングプア”が単行本化されたので読んでみました。
 「ワーキングプア−日本を蝕む病−」ワーキングプア―日本を蝕む病
 TVでは、その実情を映像で見せられたことで、個々の事例の悲惨さに心が奪われましたが、活字化されると、こういった事例を生んだ背景・国や地方の行政について深く考えさせられます
 働く場所がなく住む場所がないため路上生活をやむなく続ける若者、妻の医療費を払うために懸命に働こうとしても地域全体が不況のために税金さえ払えない老夫、子供の養育のために昼夜をダブルワークで働く父や母。父の病気のために進学をあきらめ、調理師として低賃金で働く娘たち。TVではセレブの生活や豪邸訪問、着ている芸能人の衣装が何千万などのバラエティ番組が垂れ流される中、実際にはこういった現実があちこちにあります。
 貧困は人間を荒廃させます。そしてそこで生まれた這い上がれない状態・家庭環境は、子・孫へと次の世代に続きます。荒廃した心を持つ人たちが増加すれば、この国の社会的構造も変化し、モラルハザードも起こります。
 この国はいつからこのような貧困を見過ごす国になったのでしょうか。貧困を生んだ原因は何なのでしょうか。
 ひとつは市場原理主義がもたらす雇用の削減だと思います。競争に勝ち、短期の金銭的利益を生み出す為には固定費の削減、とりわけ人件費の削減が効果的です。正社員が減り、パート社員・派遣社員が増加している現状はご存知の通りですし、製造業ではさらに新しい雇用を発展途上国に求めたり、現在では下請け企業に中国からの研修生・実習生を月5万円・時給200円で働かせる事で日本人の雇用を減らしていたり、工賃そのものを下げさせて製造原価を下げさせています。収益基盤を立て直すリストラは場合によっては必要ですが、現在の販売価格を低下させるためのグローバル化という名の雇用削減は、地域社会に大きな負の影響を与えます。2007年9月20日日本経済新聞企業価値を探る−CSRの視点から”では、企業の最大の社会貢献は“雇用の拡大である。”と日本電産永森重信社長は述べられています。低価格路線をひた走り売り上げを伸ばす企業が、CSR(企業の社会的責任)の為にメセナを実行しようと、自国の貧困を生む雇用・工賃の削減を実施していては何がCSRかと言われていても仕方がありません。
 しかし、そんな状況がワーキングプアを生んだすべての理由ではありません。手に入れた賃金を伴侶の・父母の医療費にあてた為、残る収入がなかった例もあります。また、療養病床が削減されたら、患者たちの戻る場所の確保が必要になります。そのために、生活保護を受けることの出来る生活状態にあっても、戻る家の確保のために資産として家を手放すことができない為生活保護が受けられない状況もあります。
 今必要なのは現状を知ることです。そして、企業が目先の利益ではなく、長期的視野に立って何をすればよいのか考えることです。利益を株主だけでなく、社会に還元する為の施策を講じることが、ワーキングプアを減らす行為なのだと思います。