混合診療

 平成19年12月2日付日本経済新聞編集委員:大林尚氏の署名入り記事”けいざい解読”で「混合診療禁止、誰を救うか。」という記事が掲載されています。
 内容としては、混合診療禁止を唱える人達を反規制改革派=抵抗勢力として、その論法を

  1. 「誇大喧伝戦術」:あまり起こりそうにもない特殊な事例を前面に出し、改革の弊害が大きいと囃す。
  2. 「弱者同盟戦術」:改革で困るのは既得権を持つ自分なのに、弱者が置き去りにされると、もっともらしい理由を探す。

と分析し、混合診療を禁止する厚労省は誰を救うのかと疑問を投げかけたものです。
 勿論、これは先月東京地裁で出た”インターフェロン(保険適用)と活性化自己リンパ球移入(自由診療)”の混合診療に対し、健康保険には混合診療を禁ずる明文規定はないという判決に基づく意見なのでしょう。
 しかし、混合診療の全面解禁を拒む理由のうち、主な二つの理由を

  1. 患者に保険外の医療費を求める医師が増える。
  2. 有効性や安全が確認できない非科学的な医療を助長する。

として、それぞれに対して展開する論理にはいささか疑問があります。
 まず、筆者もその可能性を認めている”患者に保険外の医療費を求める医師が増える”に対し、「なるべく多くの医療行為に保険を適応するのは理想だ。一方で国や自治体、健康保険の財政制約がある点も忘れてはならない。」という点。
 その医療の有効性・適合性が認められるなら、多くの人に保険を通じ安価で提供するのは社会保障として当たり前のこと。財政的制約があると言うのなら、その財政を賄う基盤を整備する、たとえば付加価値税社会保障費に充当する等の根本論議が筋でしょう。
 ”有効性や安全が確認できない非科学的な医療を助長する”に対する「そんな不届きな医師を取り締まれば、杞憂に終わる。」と述べておられますが、そんな不届きな医師が診療所レベルで出てくると、取り締まるのにどれぐらいの人と時間がかかるのかお考えになっているのかと思います。それより前に、医療行為を適切に審査し、そんな医療行為の保険適応を認めないことの方が抑止力は十分にあります。
 人は報酬が高いものに行きたがります。過酷な業務を過小評価される為に、診療科が偏在している現状はご存じの通り。ここで混合診療が解禁されれば、自由診療で高額な料金を患者様に負担させる医療も出てくるだろうし、今ある保険適応の医療行為も適応外にしようとする動きも出てきます。そうすれば医療費は必ず上昇し、格差の助長にもなります。
 また、医療者側と患者様側には絶対的に”情報の非対称性”があります。保険適応という審査を行うことで、患者様には知ることのできない医療行為の安全性を担保することになるのです。
 患者様を救うためには、混合診療の全面解禁ではなく、所謂自由診療の適正性を迅速に審査するようにする事の方が妥当なのではないでしょうか。
 ”混合診療を阻むことで、厚労省は誰を救おうとしているのか”と、筆者は記事を締めくくっておられます。
 それなら混合診療を促進することで、あなたは誰を救おうとしているでしょうか。これまで以上に医療費抑制を図ることができるようになる財務省でしょうか。それとも自由診療という市場を作り出すことで儲けようとする医療保険会社でしょうか。
 医療に経済が踏み込める部分はあるとは思いますが、医療を知らずして経済理論のみで踏み込むことは、”いのち”がそこにある以上、あってはならないと思います。