経済学者の考える後発医薬品普及策

 2007年12月11日の日本経済新聞”経済学教室”に、青山学院大学教授:飯塚敏晃氏が「後発医薬品使用推進策」として、一つの解決策を提案されています。
 先ず飯塚氏は、今の後発医薬品の使われ方を次のように分析されています。

  1. 後発医薬品の使用は診療所に偏り(32,6%)、大病院(500床以上)では殆ど使われていない(1.8%)こと。
  2. 処方数から見ると、非分業と分業の診療所のシェアは43%:30%になること。
  3. 院内処方の診療所では43.9%後発医薬品が処方される一方、医薬分業では16.4%でしかならないこと。

 上記の結果の理由としては

  1. 院内処方の診療所では、薬価差益は医療機関の収入となるため、後発品の薬科差益が先発品より高い場合、比較的容易に変える事ができる。
  2. 大病院で後発医薬品が普及しないのは、薬価差益を得るのが処方医師個人ではなく、病院だからだ。
  3. 院外処方後発医薬品が利用されないのは、調剤薬局に後発品を置く経済的メリットが十分でないからだ。特に、後発医薬品の薬科差益は、現行の薬価改定ルールを取る限り、短期間で大きく低下する。例えば、新薬(先発品)の7割に設定された後発医薬品の薬価はその後2年毎に改定されるが、その時の新薬価は改定前の実売価格に、改定前薬価の2%を上乗せした水準で決まる。従って、もし最初に薬価差益を大きくとる価格設定をしても、翌期の薬価は大きく下がる為に、薬価差益は大きく縮小してしまう。それ故、長い目で見ると、後発医薬品に経済的メリットは無い。

というものです。
 それでは、飯塚氏の提案する後発医薬品普及策はどのようなものなのでしょうか。それは、

  1. 現在の厚労省が検討しているような、後発品への変更率に応じて調剤報酬を変化させる。
  2. 現在の薬価改定ルールを後発医薬品には適応せず、後発品の薬価を実売価格に関わらず新薬の一定比率にする。これにより、後発医薬品の薬価差益の急激な低下を防ぐ。

というものです。
 つまりは、薬局に先発品を調剤するより後発医薬品を調剤する方が大きな利益を得られるようにするというものです。
 まさに、経済学者らしい考え方、利益を生む構造さえ作っておけば後は市場原理主義がうまくやってくれる、アダムスミスの「神の見えざる手」論理なんだなあと思いました。
 ところが、私の目から見ると、経済学者には理解できない部分が医療にはある、それは医療者が持つ”医療倫理”です。 医療は絶対的なものではない、それは個々人が全て異なる遺伝子を持つ以上、どの薬剤も同じ効果を個々人に与えるわけではない、それ故医療者は個々の患者と向き合い対話を重ねる事でより良い医療を行おうという倫理観を持っています。また、同成分同薬効であるはずの後発医薬品でも、その動態には個々の商品が先発品とは多少異なるし、そのようなデータの提供が添付文書などに無いものもあります。科学としてそれらを見るとき、先発品に出来るだけ近いものを選び、患者様に有害作用の発生が無いように考えます。これも倫理観を薬剤師が持つからで、利益の多い少ない等考えてはいません。そこには、経済学者の考える市場原理主義が入り込む余地などはありません。金銭的利益で患者の利益を奪おうという意識など無いのです。
 飯塚氏は、調剤薬局に金銭的メリットが無い為に、「後発医薬品変更可」欄に医師が署名がした処方箋(全体の17%)の内、実際には8.2%しか変更されないのだと述べられています。しかし、「変更可」の署名がある処方箋を持参した患者様に後発医薬品の説明をすると、「私は後発品は要らない。」「なんだそれくらいしか安くならないのなら先発品で良い。」という人がどれ位いるか調べた事はあるのでしょうか。金銭的メリットだけで薬局が動くとお思いなのでしょか。
 経済学者のこのような発言を聞くと、私は村上ファンド村上世彰氏が叫んだ言葉「お金儲けは悪い事ですか。」を思い出します。それは私達に対する「おまえだってお金儲けはしたいやろ。」という恫喝にしか聞こえないからです。