後期高齢者医療

 私達薬剤師が日頃行っている在宅患者への訪問薬剤管理は、正式名称は在宅患者訪問薬剤管理指導(介護保険では居宅療養管理指導)と言います。これは、主治医からの要請と患者様の同意により行われるもので、通院が困難な患者様のお宅を訪問し、服薬指導・薬歴管理・薬剤服用状況や保管状況の確認などの薬学的管理指導を行っています。実際の患者様は、ほとんどが高齢者ですので、介護保険下の居宅療養管理指導を行っているという事になります。
 介護保険下にある高齢者の多くは、医師・薬剤師の行う医療と、ケアマネージャが計画を立てる介護を受けておられます。つまり、一人の患者様を支える両輪であるわけです。したがって高齢者の生活を支えるには、医療関係者のみならず、介護・福祉関係者との相互の情報の共有や連携を行う必要があります。その為に、カンファレンスが必要となります。昨年4月に出された”社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会”がまとめた「後期高齢者医療の在り方に関する基本的な考え方」にはこういった内容が記されています。
     http://www-bm.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/s1010-7.html
 また、この”基本的考え方”には”後期高齢者にふさわしい医療(基本的事項)”として、以下のようなことが書かれています。
 「後期高齢者には、若年者と比較した場合、異なる心身の特性がある。

  1. 老化に伴う生理的機能の低下により、治療の長期化・複数疾患(特に慢性疾患)への罹患
  2. 症状の軽重は別とした認知症
  3. いずれ避けることのできない死を迎える。

 こうした心身の特性から、後期高齢者に対する医療には、次のような視点が必要である。

  1. 後期高齢者の生活を重視した医療(どのような介護・福祉サービスを受けているか、生活や家庭状況を踏まえた上での医療))
  2. 後期高齢者の尊厳に配慮した医療(個人として尊重され、人間らしさが保たれた環境においてその人らしい生活が送れるよう配慮した医療)
  3. 後期高齢者及びその家族が安心・納得できる医療(いずれ誰もが迎える死を前に、安らかで充実した生活が送れるように、生命を預けられる信頼感のある医療)」と書かれています。

 この考え方は、日本国憲法第25条の”生存権”即ち、

  1. すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。(第1項)
  2. 国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。(第2項)

に基づいた、後期高齢者に対する医療の大事な考え方だと思います。
  さて、現実は
 介護を受ける高齢者には、介護保険のことがしっかりわかっている方は多くはありません。要介護・要支援の区分が何を意図するのか、何でも高い方が得なように思っている方が多くいらっしゃいます。自分に必要な介護を自分で決め、自分で契約する。費用のかかることなのだから、必要のないものはいらないとはっきり述べる、こんな事が高齢の方にはなかなか言えません。高齢者の尊厳に配慮した介護や医療が十分になされているかというと、個人的には疑問を抱くことが多々あり、高齢者の介護に対する理解が難しい面を逆手にとり、介護を商売にしている人もいるように思います。
 また、実際現場に出かけると、多くの独居のご老人がいるのですが、その地域住民の方からは、「こんな高齢者が独りで生活するなんて、火事でも起こしたら取り返しがつかない。ボケているんだからさっさと施設に入ればよいのに。」などという声を耳にしたりもします。高齢者は確かに多くのことを忘れやすくなります。しかし、認知症というのは、”忘れやすくなっている”事だけで決められるものではありません。健忘以外に必ず、時間や場所に対する見当識障害・計算障害・失行症・失語症などの認知機能障害が一つ以上加わるものをいいます。したがって”歳を重ねる”ことが”ボケ”なのではありません。こういった高齢者に対する世間の不条理な意識も改めることも、後期高齢者に対する医療の在り方で取り上げるべき点だと思います。
 高齢者に対してどのような介護・医療が必要となるのか、これは有識者からのヒアリングに基づいた先の”基本案”で十分まとまっていると思います。それを現場レベルでどれだけ真摯に行えるか、これは現場の人間に与えられた重い宿題です。しかし、大事なのは”人間の尊厳をどのように考えるか”であって、それを認識した者には行動を起こすことはたやすいと思います。