H5N1

 現在H5N1は、近い将来に新型インフルエンザとして大流行の可能性を持つ鳥インフルエンザを意味しています。つまり正確には、”H5N1鳥インフルエンザ”という名称になります。しかし、この鳥インフルエンザが変異を起こし、ヒトからヒトへと感染するインフルエンザとなった時、”H5N1新型インフルエンザ”になります。
 最近H5N1は、NHKでも”爆発感染”というドラマとなって放送され、翌日にはドキュメントとして報じられました。日本経済新聞では1月23日に”未知なる脅威:新型インフルエンザ”として特集が組まれ、朝日新聞でも2月9日に”時時刻刻”で”鳥の猛威14カ国230人感染死”として報じられました。
 更に国立感染症研究所研究員:岡田晴恵氏は、H5N1の脅威についてわかりやすく説明した本を出版されています。(このエントリーも以下の2冊を中心にまとめました。)
 「H5N1」 ダイヤモンド社(小説)1600円 H5N1―強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ
 「新型インフルエンザH5N1」岩波科学ライブラリー(田代眞人共著) 1200円 新型インフルエンザH5N1 (岩波科学ライブラリー)
 H5N1は、何故それほど恐れられているのでしょう。それは、その強毒性にあり、ウィルスの構造に起因します。そして、その構造ゆえにH5N1と分類され、名付けられています。

  • 構造

 インフルエンザウィルスは直径が約100nmの楕円形を示し、インフルエンザA・B型の場合8本のRNAが内在します。表面は脂質二重層の膜(エンベロープ)で被われています。その膜には二種類の糖タンパクがスパイク状に並んでいます。
 一つはHA(赤血球凝集素)、もう一つはNA(ノイラミニダーゼ)です。インフルエンザにはA・B・C型の3種類がありますが、このA型の場合、HAはH1〜H16まで16種類、NAはN1〜N9まで9種類あるので、理論上144種類ある事になります。そして、そのインフルエンザウィルスのHA・NAの型番をとって、H5N1と分類されています。(ちなみにスペイン風邪はH1N1,香港風邪はH3N2と分類されています。)
 では、HAやNAはどんな働きをしているのでしょうか。
1)HA
 HAは、標的細胞表面にあるレセプターに吸着・結合する働きと膜融合によりウィルスRNAを放出する二つの働きをします。特に膜融合は、HAの特定部位のアミノ酸がプロテアーゼによって加水分解されることで獲得されます。従来のインフルエンザウィルスはそのHAの構造により、呼吸器と腸管にあるプロテアーゼによってのみ加水分解されたため、増殖がこの部分で繰り返され、症状も呼吸器疾患を示していました。その為、”弱毒性”といわれます。
 これに対し、H5N1は体内に存在する全てのプロテアーゼで加水分解され、膜融合性を獲得します。つまり増殖は体内の何処ででも起こります。従ってウィルスは血中に入り、”ウィルス血症”を起こして全身の臓器に広がる為、症状は全身症状、つまり出血・多臓器不全・急性呼吸器促迫症候群・腹痛・下痢・脳炎心不全・腎不全を起こします。これが”強毒性”の所以です。
2)NA
 NAは、宿主細胞の中で増殖したウィルスを宿主のレセプターを破壊する事で切り離し、外部へ放出する働きをします。タミフルリレンザはこのNA阻害剤でインフルエンザウィルスを破壊する薬なのではなく、増殖を止める働きをするものです。
 2月3日の日本経済新聞には、タミフルが効かない”欧州でタミフル耐性ウィルス急増”の記事が出ました。恐らくインフルエンザウィルスのNAの特定部位アミノ酸が置換しているのでしょう。こういった変異がインフルエンザウィルスには多く、H5N1もこの耐性を獲得すると、政府が目指すタミフル備蓄計画も無駄になってしまいます。

  • 対策

 H5N1新型インフルエンザは、アメリカでは致死率20%という過程で対策が打たれています。それは、一度パンデミックが起これば半年以内に全人口にパンデミックワクチンを用意するというものです。カナダ・独逸でも4ヶ月以内にワクチン接種を計画しています。
 スイスは、プレパンデミックワクチンを国民全体に接種するとしています。これはH5N1の中のどの系統樹(5つあります)から新型が発生するかわからないから、系統樹が異なってもアジュバンドを入れるとプレパンデミックワクチンでも効果があるとするものです。
 さて、日本はどうでしょう。プレパンデミックワクチン1000万人分用意するも、それ以上のワクチン製造についての対策はありません。タミフル備蓄も、耐性が生じたり、WHOが推奨する用法(成人1日300mg8日間服用)で備蓄しているものではありません。リレンザを備蓄しても、H5N1は全身性感染なので、吸入タイプでは効果は見込めません。
 
 以上、現在のH5N1についての情報を記しました。
 大事なのはこうした情報を多くの人が共有する事です。そして、それぞれがあなた任せの考えでなく、どうすれば良いのか自ら考える事です。
 案外無事に終わるかもしれませんが、無事だったら儲け物と思って考えて行動する事が大事だと思います。