後期高齢者医療制度の趣旨

 参考文献:”社会保障の明日”西村 淳著 社会保障の明日―日本と世界の潮流と課題
 4月より始まった後期高齢者医療制度に対し、多くの不満がメディアを通じて表されています。曰く

  1. 消えた年金”など、払われるべき年金問題が未だ解決されていないのに、納めるべき保険料を、その年金から“天引き”の形で徴収するとは何事か。
  2. また、その天引きでの徴収ミスが4万人分・2億円もある。
  3. 保険料算定に対し、従来あった低所得者に対する市町村の軽減処置が図られておらず、弱者に今までより多い負担を求めている。
  4. 保険証の送付先の確認が確実に行われなかった為、医療を今必要とする高齢者に届かない事例が多々あり、開始当初は全額負担という事例もあった。
  5. 外来主治医制度などにおいては、行われるべき検査・治療が十分行えなくなる。
  6. 今まであった人間ドッグなどに対する補助がなくなっている。等など・・・・

 これらの意見を見ると、負担と受益、どちらの面からも高齢者には厳しい制度だと認識されている事がわかります。
 しかし、なぜこの制度が作られたのか、その趣旨を考えれば、この制度の異なる側面も見えてきます。
 後期高齢者医療制度が考えられた背景には、類を見ないスピードで進む日本の高齢化があります。医療制度は、相互扶助・助け合いが基本ですが、人口の最も多い世代である団塊の世代が定年を迎えると、若年者が高齢者を支える仕組みのこの制度では、現在より多くの負担が若年者に襲い掛かります。つまり、“世代間の公平性“が問題となってきます。
 さらに、今までの制度では、財政基盤の強固な被用者保険から、自営業者などを中心とする財政基盤の弱い国民健康保険に、老人保険制度を通じて財政移転が行われていました。つまり、“世代内の公平性”にも問題があったのです。
 そこで、この不公平感を是正するために、“世代間の公平性”については、高齢者の負担増を、“世代内の公平性”については、国や都道府県が公費を投入することで解消してきました。
 しかし、それも限界があります。そこで、高齢者や若年者の負担割合を確定させ、高齢者にも自分にかかる医療費に対する保険料を各人が払う仕組みにするため、後期高齢者医療制度ができたのです。
 確かに、高齢者には今までより厳しい制度です。長く生きると必然的に病気に罹る事も多くなり、医療費はかさみます。経済の低迷と医療費の増大には関連などありません。戦後この国を作ってきた方達を支えないこの制度には問題が多々あります。
 しかし、現行の保険料方式の医療制度では、今まで述べてきた世代間・世代内の公平性に問題が生じるのも事実です。
 そして、一番の問題点は、制度を作った国会議員・政府・厚生労働省が説明をしてこなかった事です。さらに、メディアもこの2年間問題点を何も報道してこなかったはずです。そして制度が始まってからこの騒ぎ。目先の問題点のみを報道するのは、去年の“タミフルと異常行動”を思い出してしまいます。
 この国の医療を守るために、その制度を支える財政基盤を確固とするために、今何が必要なのか、どのような制度であれば良いのか、今より負担をかける弱者を支えるためにどのような扶助が必要なのか、今はそれをじっくり考える良い時期なのかもしれません。