”突き抜け方式”保険制度の問題点

 政府・与党は、後期高齢者医療制度の改善策を、第2回目の天引きが行われる6月13日までに作成しようと対策を本格化させています。その中身はというと。

  1. 低所得者向け保険料の8〜9割軽減を実施する。
  2. 半年間の延長が認められている、会社員である子どもに扶養されている高齢者の保険料免除を更に1年延長する。
  3. 前期高齢者(70歳〜74歳)の窓口負担を来年4月から1割から2割に引き上げする予定だったが、これを凍結する。

などです。
 確かに、有権者にとっては心地よい響きのある言葉ですが、ではその財源はどうするのでしょう。これだけの事をするには、日本経済新聞によると、およそ2000億円必要です。2006年の骨太の方針で決まった5年間で1兆1000億円の社会保障費抑制は現在も続いており、経済財政諮問委員会も堅持するといっていたはずです。
 こういった大切な社会保障の問題を、選挙目当てのその場限りの政策で、すり替えてはなりません。もうそろそろ日本でも成熟した議論が行われるべき時期が来たのではないでしょうか。
 そんななか、5月16日付朝日新聞には、高齢者医療のあるべき姿を巡って、堤修三・大阪大学教授と広井良典千葉大学教授が議論を戦わせています。
 特に、この議論の中で堤修三先生は、「突き抜け方式」を語っています。
 これは、現役サラリーマンが、同じくサラリーマンを長く続けた厚生年金・共済年金の受給者(退職者)をまとめて面倒見て、国民健康保険の被保険者にはさせない、国民健康保険ばかりに多くの医療費をかけさせないというものです。
 しかし、よく考えてみるとこの案には矛盾があります。
 1995年の日経連レポートは、これからは企業は正規雇用者を減らし、派遣社員・パート従業員を増やす事で人件費を減らし利益を確保すべきだと唱えました。
 その結果、1997年から2007年の10年の間に、正規雇用者は3812万人から3441万人と400万人減り、逆に非正規雇用者は1152万人から1732間人と600万人増えました。つまり、現在従業員3人に一人は非正規雇用者なのです。非正規雇用者は原則国民健康保険者で、平均年収267万円、保険料負担は年収の12%で全部自腹です。その結果、多額の保険料を払う事ができなくなり、滞納者が増えているのが現状です。一方、正規雇用者は平均年収523万円、保険料は会社と折半で6%です。
 この状況下で、国民健康保険と被用者保険(社会保険・共済保険)が突き抜け方式をとるとどうなるでしょう。国民健康保険加入者は企業が作り出した社会的弱者のはずなのに、その弱者をはずして自分たちだけ、正規社員だけが護られる保険制度を作る事は、あまりにも勝手な議論なのではないでしょうか。
 もうそろそろ、自分たちの社会保障を自分自身が良く考えるという成熟した社会を、私たち自身が作るべき時期が来ていると私は思います。