タミフルと異常行動…疫学調査

 タミフルと異常行動について、疫学調査の結果が、各種報道機関から発表されました。
 例えば、産経新聞にはこのような記事が出ています。

タミフル 異常行動「関係なし」 10代への処方禁止見直しも
7月11日8時1分配信 産経新聞


 飛び降りなどの異常行動と因果関係が疑われているインフルエンザ治療薬「タミフル」について、厚生労働省の2つの疫学研究班が「服用と異常行動の因果関係は認められない」とする報告をまとめ、10日の安全対策調査会作業部会に提出した。調査会は秋までに安全性について結論を出す方針だが、10代の処方を「原則禁止」とする現在の措置を見直す可能性が高まった。

 疫学調査の1つは、昨冬の流行シーズンに国内の全医療機関から報告を求めたもの。30歳未満で重度な異常行動は77例報告された。平均年齢は8歳で71%が男性。31%がタミフルを服用していた。10代のタミフル服用が禁じられた昨冬と、異常行動の報告が相次いだ平成18〜19年のシーズンを比較すると、20歳未満では異常行動の発現比率に差はなかった。

 また、18〜19年のシーズンにインフルエンザになった18歳未満、約1万人を対象にした調査でも因果関係は認められず、2つの調査で(1)高熱(2)過去に異常行動の発現あり(3)男性−がリスク要因で、目覚めた直後に発現しやすいことが分かった。

 タミフルの安全性をめぐり、調査会にはすでに臨床試験動物実験のデータが提出されている。今回の報告を含め、安全性を判断するデータのすべてが「因果関係なし」となった。

 厚生労働省疫学調査の原文はまだ見ていないので、正確な判断はできませんが、報道記事から考えると、10代の子供たちへのタミフルの使用は問題ないという事になります。
(記事作成後に次のような報告がされています。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0710-6ak.pdf
 しかし、実際の現場では、医療訴訟などを考えると、今後も”使用については控える”という結果になりそうです。
 ある意味、加熱しすぎた”タミフルと異常行動”報道ではありましたが、今回の報道で、”インフルエンザ”に対する治療について考える機会が与えられたのは良い事だったように思います。本当に治療に必要な知識とは何なのか、そしてどのように実践するのか、いろいろ考えさせられました。また、新型インフルエンザのパンデミックの為に、備蓄薬としてのタミフルの有効性も考えさせられました。
 しかし、同時に垂れ流しの報道、社会の不安を煽った報道がこのまま終息して良いのかという思いもあります。異常行動の報道で、どれだけ多くの診療への疑問・不安が噴出したかお分かりでしょうか。医療に対する疑念・不安を増幅させたうえ、今回の疫学調査結果を一部新聞では片隅に、多くのテレビでは流そうともしない姿は、社会の公器たる”報道”のあるべき姿だとは思えません。
 こういった報道がもたらす不安が生じさせる”医療訴訟”により、どれだけ多くの医師が現場を去ろうとしているのかは考えたことがあるのでしょうか。
 「クライマーズ・ハイ」という小説があります。(現在は映画となって堤真一主演で公開されています。)この小説のラストは、御巣鷹山での日航機墜落原因を完璧な確証の有無で流すかどうか、報道記者の姿勢が問われています。結局、主人公は確証のないものを流さない姿勢を貫き、すっぱ抜きは他社に取られました。しかし、実は真に正しいのは、こういった姿勢、人としての信念なのではないでしょうか。
 小児・救急医療を危機に追いやっているのは、検証もせず、大衆が飛びつきそうな話題を垂れ流ししている報道が一つの原因でもあると、私は思っています。