規制緩和

 日本経済新聞2008年10月20日”インタビュー:領空侵犯”に、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏の発言が記載されています。曰く、
「省令は無用の長物:霞ヶ関の官僚は、国会という透明性の高い場で作られた法律を肉付けする省令や通達という装置を、官僚自らの権限で作成し実行している。例えば、2007年の改正建築基準法の施行における国交省の厳しい審査や、2006年の電気用品安全法適用における中古電気製品についての経済産業省の取り扱い問題などで市場は混乱した。今またインターネット販売で、厚生労働省は薬剤師の技官が中心となり、医薬品を対面販売原則という規制を設けようとしている。商品名を指定して風邪薬を買う人も多い中、対面販売など時代錯誤も甚だしい。消費者よりも薬剤師業界の利権を守ろうとしているこのような規制を、国会審議を経ずに役人の胸三寸で決まるのはおかしい。」
 また、聞き手の編集委員:大林尚氏も”コンビニでも薬を扱えるよう規制緩和が進んだ、そのうっ憤ばらしにネット販売規制が唱えられれているのでは?”と記事は書かれています。
 規制緩和について、佐和隆光教授が書かれた”初めての経済学”という本には、以下のようなくだりがあります。
 「規制には、あってはならない規制、あっても無くてもいい規制、なくてはならない規制の3つがある。あってはならない規制とは、規制によって利益を被る人々がいて、規制撤廃・緩和によって既得権益を奪われる人が圧力団体となって政治に働きかけて規制を作る。例えば、かつてのコメの輸入禁止、生糸の一元輸入などがそうである。1980年以降グローバルスタンダードという言葉のもと、こういった”あってはならない規制”が次々と撤廃されていった。しかし、こういった規制撤廃のもと、”なくてなならない規制”までもが緩和・撤廃されるのは問題視せざるを得ない。”なくてなならない規制”とは何か?それは、生活の安全・安心を保障する規制、環境を保全するための規制などがそうである。」
 さて、今現在薬剤師は既得権益を奪われる人でしょうか。本年度から始まった登録販売者試験はすでに終わり、多くの登録販売者ができました。彼らの出現でコンビニ・スーパーでも多くの薬が売れるようになります。夜中でも、早朝でも、困った時に買えるようになります。つまり、もう薬局はすでに既得権益を奪われてしまった状態にあるのです。ならば、これは”あってはならない規制”でしょうか。薬は、鎮痛剤でも、風邪薬でも使い方によっては喘息の発作を誘発したり、尿量を減少させたり、胃壁を荒らします。胃薬の制酸剤も、ある種の抗菌剤と併用すると吸収を妨げますし、多量のミルクと併用すると、相互作用が生まれます。対面販売で薬を売る時、一声かけるだけでこういった事故を未然に防げます。薬剤師も登録販売者もこういった知識を身につけています。ネット販売にはこういった安全を担保するシステムができていますか?対面販売は、実は生活の安全と安心を保障する”なくてなならない規制”とは思えませんか?
 今までネット販売で自由に薬が売られていました。安心と安全を購入者の責任にして、薬がいとも簡単に販売されてきました。これが販売できなくなる事、そうやって利益を失う事、それを止めさせようと新聞で問いネットで謳う、それ自体が体の良い圧力ではありませんか?既得権益を守ろうとする圧力団体の行為ではありませんか?
 規制緩和をし、すべての選択の自由を消費者に委ねることだけが正しい道のように、商学部や経済学部出身論者の規制緩和論者はおっしゃいます。しかし、医療・健康を扱う薬を供給する薬剤師や登録販売者には、その知識において消費者とはいかんともしがたい知識の差があります。勿論、他の商品もそうではあるでしょう。しかし、命を扱う商品です。規制をはずして健康被害が起こったらどうするのか。規制撤廃だけが消費者を守る手段なのではありません。適正な規制が必要な場合もあるのです。新古典派主義やマネタリストの思考が、医療にまで入ってくるのは大きな過ちです。
 では、薬剤師や登録販売者は常に背面販売を心がけているのかと問われるかもしれません。もちろんそうとばかりは言えないと思います。商品名を言われれば、そのまま売ってしまうこともあるでしょう。ネット販売者に薬剤師がいることも事実です。しかし、医療事故を未然に防ぐために対面販売を心がける制度を徹底させる事、この制度をよりよい物にするために時間をかけて育てる事も、国民の大きな利益を生むことにはならないでしょうか。少なくとも野放し状態のネット販売よりはましではないでしょうか。今しばらく”育てる”時間をいただけないでしょうか。
 薬剤師は、登録販売者制度ができた時点で既に圧力団体ではありえません。薬剤師業界の利権などOTC販売については既に存在はしません。登録販売者にOTC販売を委ねる時間を、”医療の担い手”として在宅患者の終末期医療・緩和医療などに注ぐ、今回の登録販売者制度にはそういった意義もあるのです。その事をを十分認識して下さい。
 また、日本経済新聞編集委員ともあろう方が、こんな提灯持ち記事を書き、”うっぷん晴らし”などの雑言をはくなど、自らを貶める行為をしないで頂きたい、私はそう思います。