患者の声を医療に生かす

 昨年の10月より私はこのブログをしばらく休んでいました。
 当時を振り返ると、書く内容に手詰まりを感じたのか、何を書けばよいのかを見失っていた気がします。
 その間、薬剤師が集うSNSを拝見したり、書き込んだり、また多くの本を読みました。
 また、医師や看護師や患者が集う勉強会にも数多く出席してみました。ただ、そこでは薬剤師に出会う事は非常に少なく、少しさびしい気がしました。
 そしてある時、患者の家族、それも男性介護者のみが集まる会に出席しました。
 患者の家族が語る話を聞いていると、そこには多くの知識不足・経験不足が感じられました。そこで私は薬剤師としてそういった知識について発言してみました。
 しかし、一人の老紳士が私に向って言いました。
 「君の発言は”上から目線だ”。」
 正直私は愕然としました。と同時に、そういった発言を生んだ自分の態度を振り返ってみました。
 そこで気がつきました。「そうかもしれん。」と……

 医療者と一般の人には、病気や治療法などに対する情報の非対照性が明らかに存在します。
 それ故、医療者には多くの場合、「こういった事を言ってもわからないだろうなあ。」という意識が存在していると思います。
 そういった感覚の上での発言は、多くの場合”上から目線”になると感じられても仕方ないのかもしれません。
 しかし、現に感じる病気の症状は人それぞれであり、その内容を知っているのは患者自身です。患者以上に自らの辛さや怖さをしているのは誰もいません。
 それを理解せず、学問としての一般論ばかりを振りかざす医療者に自分がなっていたとは…・まさに自分を見つめなおす一言でした。

 そんな経験をした故に、患者家族の心や感じた事を聞こうとこの会には欠かさず行くようにしました。
 同じ目線で感じ、同じ目線で考える、その大切さは言葉にできるものではなく、まさに生き方を変える作業でもありました。
 そのなかで、”上から目線”と評した老紳士は、ある日私にこう言いました。
 「一緒に生きようとするあなたの発言・行為がよく理解できた。共に学び歩んでいこう。」と。
 この言葉は、現在私の至上の宝ものでもあります。

 そんな中、私は一冊の本と出合いました。
 「患者の声を医療に生かす」患者の声を医療に生かす
  医学書院  大熊由紀子・開原成允・服部洋一編著

 この本には多くの患者・家族の声があります。
 病気の主人公が患者・家族のはずなのに、いつの間にか医師主導になっている現在の医療。
 知識の非対称性ゆえに存在している医療者と患者の間に存在する壁。
 冒頭の帯にはこう書かれています。
   従うわけでもなく、ぶつかるわけでもない「向き合う声」には、耳慣れない響きがある。
   その響きがもたらす小さな驚きは、患者と医療者を隔てる壁をもう一度見直すきっかけをつくる。
   そこで両者は、越える事を許さないこの高い壁のそこかしこに、
   小さな穴があいている事を見つけたのである。
 今医療の崩壊がささやかれる中、実は医療者が患者家族の声をしっかり聞くことで現実は変わる事が出来るかもしれない。
 少なくとも、相互の理解は深められる。
 それが医療改革の第一歩。
 この本は医療者が進むべき新しい道を進むための後押しをしてくれる・・・・私はそう感じました。