終の棲家(自宅編)

 2011年度末までに、現在ある療養病床37万床のうち介護療養病床12万床は全廃されます。また残りの医療療養病床25万床も15万床+αに削減される予定です。また現実には既に療養病床の診療報酬は昨年7月に改定され、以前は全患者一律に一人当たり入院基本料月額約49万円の診療報酬があったものが、医療区分1(医療の必要度が少なくて良いもの):約36万円、医療区分2(例:透析や痰吸引などを必要とする患者):約52万円、医療区分3(医療の必要度が最も高いもの:人工呼吸器使用患者など):約65万円となり、閉鎖される病院や診療区分1の患者が全員老健施設や特養に移動させられた例もでてきています。
 勿論これは医療費削減のための一手段です。医療費の総額(国民医療費)は2005年度前年比3.2%増の33兆1289億円となり過去最高を記録しました。一人当たりの医療費も25万9300円と過去最高です。年齢別には65歳未満の平均が15万9200円に対し、65歳以上は65万5700円と4倍強を示します。2007年現在75歳以上の高齢者が全人口1億2000万人に対し1300万人、これが2025年には2100万人を超えると予想されており、高齢者の医療費の伸びの抑制は必須です。その為の厚労省の対策として後発医薬品使用の推進やレセプトのオンライン化などあるのですが、その中の一つとして医療機関間や介護との役割分担・在宅ケアが重視され、社会的入院の削減のための長期医療病床の介護保険施設への転換・24時間対応の在宅医療診療所の制度化が進んでいるのです。
 今から30年前の昭和51年までは、病院より自宅で最期を迎える人の数の方が多かったのですが、今では病院で最期を迎える方は全体の8割を超えています。医療費を削減する為という意味ではなく、もう一度「最後の生き方」を考える為に、終の棲家を考える事も必要です。
 日本経済新聞の”サンデーニッケイ・アルファというコーナーで8月5日から5回に亘って「最期はどこで」という記事が掲載されました。記事では終の棲家を自宅・病院・介護施設・高齢者住宅・ホスピスの五つに分けています。ここでも同様に5つの形態を例にお話してみたいと思います。
1)自宅
 病院の療養病床が減る以上、必然的に自宅での最期は増えていく事になります。しかし、その場合でもおかれている生活環境によって自宅での最期の可能性は変わってきます。例えば、高齢者と共に子供や孫など異なる世代の家族と共に住む場合は、緩和ケアや褥創など看護や介護が特に必要な場合でも比較的容易に自宅で療養できます。しかし、核家族化が進んだ現在においては、高齢者の夫婦のみで生活し、お互いで介護をしあう”老々介護”や独居の老人が増えています。実際私が在宅医療で通う患者様の多くが独居老人です。このような場合、介護を司るケアマネージャーやヘルパー、医療を司る医師・訪問看護の看護師・薬剤を管理する薬剤師などが連携を非常に密にしなければ、在宅での療養はうまくいきません。さらに、デイサービスやショートステイなどを使って、家族の介護疲れをとる事も必要です。そのために、ケア計画は重要なものになります。
 また、在宅医療に熱心な医師は不可欠です。下記に全国で在宅医療に従事している医師を記した本を紹介します。参考にして下さい。
 在宅ケア医年鑑〈2006年版〉在宅ケアをしてくれるお医者さんがわかる本 全国版 ”在宅ケアをしてくれるお医者さんがわかる本”
 がんなどの緩和ケアが必要な場合は、現状では在宅の療養は難しいかもしれません。それは、緩和ケアに精通した医師や看護師・薬剤師が不足しているからです。実際緩和ケアに使われる医療用麻薬の使用量は、日本は世界的に見て非常に少ないのが現状です。WHOでは「WHO方式がん疼痛治療法」を作成していますが、なかなか現状では把握できていません。しかしそんな中でも、日本緩和医療薬学会が結成され、本年10月に第1回学会が行われます。一歩ずつではありますが、前向きな医療が進む事は患者様にとって好ましい前進だと思います。
 PS:独居老人は現在非常に増えており、孤独死も増えてきています。
   参考:ひとり誰にも看取られず 激増する孤独死とその防止策"ひとり誰にも看取られず”阪急コミュニケーションズ
  この本は若年者の孤独死を扱ったNHKスペシャル”ひとり団地の一室で”2005年放送から作られた本ですが、高齢者の独居・孤独死も扱った良い本です。また、別の機会に詳しく述べてみたいと思います。