なぜひとりで食べるの

2007年11月20日朝日新聞夕刊一面の“ニッポン人脈記−食卓のメロディ”に「ひとりで食べないで」という記事が掲載されました。
記事では食生態学者・足立己幸氏をとりあげていますが、足立氏は、依然私も読んで感動した、“なぜひとりで食べるの”の筆者でいらっしゃいます。
  ”なぜひとりで食べるの”日本放送協会出版 なぜひとりで食べるの―食生活が子どもを変える
(古い本なので、現在出版されているかどうかはわかりません)
この本は、日本という栄養状態の良い日本で、心身の異常を訴える子供たちが増加している原因を、食生活とどのように関連しているかを調査し、あるべき対策を訴えかけています。
その調査が際立って面白い点は、子供たちが食事をするとき、「誰と、何を、どんな気持ちで食べているか。」を面接調査し、同時にそのときの食卓の風景を子供たちの手で絵にさせた点にあります。
本には、その絵が掲載されていますが、描かれた絵と調査内容を見ると愕然とします。

  1. 朝食については40%近い子供たちが子供だけ、或いは一人で食事をしています。
  2. 10%近くは朝も夜も大人不在で食べています。
  3. 30%近くの子供は食事を楽しいと感じていません。

そして、そのひとりで食事をしている子供たちに“そのとき両親はどこにいたのか”と問うと、実は親は多くの場合家にいます。“両親はそのときなにをしていたのか”と重ねて問うと

  1. 母親は食事を作った後、テレビの前で新聞を読んでいた。
  2. 父親は外で水撒きをし、母親は寝ていた。
  3. 母親はタバコを吸いながら、横になってテレビを見ていた。
  4. 両親は隣の部屋でビールを飲んでいた。

などの答えが返ってきます。
そしてそんな子供たちが描いた絵は、色使いが乏しい寂しい絵が多く、その絵の示す食事は、副食の品数や種類も少なく、出来合いのものが多い食事を物語っていました。そのために、彼らは間食が多く、栄養は偏りがちでバランスを失っています。
逆に両親や家族とともに食事をする子供たちは、食事を楽しいといい、描く絵も色使いが豊富で、見ている者までもが思わず微笑んでしまいます。食事も品数が豊富で、栄養バランスが良いことが伺えます。
つまり、「ひとりで食べること=孤食」は、食事のバランスを悪化させ、結果体調を狂わせる原因になり、心のバランスまでもを狂わせる原因になります。
しかし、よく考えてみると、孤食は子供たちだけではありません。私が在宅で訪問する独居老人も実は同じです。ヘルパーさんに食材の買い物にいっては貰っていますが、必要な栄養を計算してのものではありません。従って食事は偏っているし、健康状態を悪化させる原因にもなります。第一、ひとりで会話のない食事を続けていても、おいしいわけはないでしょう。食事時に訪問して、ご老人の話し相手をしながら服薬指導を行うのも、実は豊かな気持ちで食事をしてほしいと願うからでもあります。
在宅医療には、このような栄養状態を考えての指導やプラン作成も実は必要です。
“ひとりで食べないで”は、子供ばかりでなく、高齢者への願いでもあります。