株式会社と薬局

 前回、医療に株式会社参入は向かないという話をしました。しかし、医療に株式会社が参入している業種があります。それが、薬局です。
 昨年6月、薬局も医療機関として認められることになりました。従って、株式会社として存在する薬局が医療を行っているということになります。
なぜ、薬局が個人としてではなく法人化するするのか、その理由はいくつかありますが、一番の理由は開設者の問題があります。薬局の開設の許可は開設者におりますが、もし開設者が死亡したりすると、その時点で許可は取り消されてしまいます。その結果、従業員として保険薬剤師がいても、処方箋を受け付けて保険調剤することは出来なくなります。許可を取り直すのに最低1〜2ヶ月かかるので、その間は処方箋調剤ができなくなり、多くの患者様に迷惑をかけることになります。しかし、開設者が法人であるなら、代表者が亡くなっても代表者変更が出来るので、保険調剤業務は続けて出来ます。その為、多くの薬局が法人の形態をとっています。
会社組織の形態として、株式会社のほか有限会社・合名会社などがありますが、平成18年5月施行の新会社法によって有限会社は廃止されており、現存する有限会社は“特例有限会社”という株式会社として存続しています。かくいう私どもの薬局も、有限会社という法人で法人登記をしましたが、現在は株式会社ということになります。
 株式会社の目的は利益を計上することです。その所有者である株主に対し、会社の経営を委託されている経営部門が、経営結果として利益を配当することは当然です。
 しかし、医療の世界で、その利益を生み出す手段として、多くの患者様に不利益がかかる行為は許されるものではありません。例えば、不効率ゆえの薬の説明時間の短縮化や独居老人宅への在宅業務の拒否、管理の大変さゆえの麻薬の不取り扱い、非薬剤師による“調剤補助”という名称の調剤行為などです。また、高齢者の増加に対して、重複投薬の防止・在宅医療の推進の意味から“かかりつけ薬局”制度を推進すべき現状にもかかわらず、医療ビルなど“ミニ病院”の門前薬局志向などは、なにを目指しているのだろうと思います。
 会社を大きくしたいという経営者の気持ちはわかります。そのために、上場して株主から資金を集め、大型薬局を作りたい・チェーン展開したいというのも理解はできます。しかし、上場してしまえば、経営者の企業理念より、所有者の株主の意見を聞かざるを得なくなります。場合によっては、経営さえ交代させられます。そうなってしまえば、経営者として目指すべき医療に対する理念をどのように具象化できるのでしょうか。
 現在、薬局の経営母体には、商社や経理事務所、医療機器メーカーなどがあります。三菱商事大証ヘラクレス上場の調剤薬局大手クオールを連結対象にする事を発表し、調剤薬局事業に本格参入します。彼らは医療に何を見、何を目指そうというのでしょうか。
 いつのまにか“株式会社”になってしまった私の薬局ではありますが、有限会社は“株式譲渡制限会社”です。これからも有限会社をくずさず、私の目指す“地域医療“を一歩ずつ進めたいと願っています。