終末期医療・緩和医療・在宅医療・・その1

先日、Blog「薬局のオモテとウラ」で終末期医療が取り上げられていました。
また、関連リンクとして私の記事も取り上げられ、平成16年7月に行われた厚生労働省の「終末期医療に関する調査報告書」も掲載されていました。
多くの方に終末期医療・緩和医療・在宅医療について参考資料となればと思い、薬剤師として、また母親を癌で亡くした一家族の話として、この記事を何回かに分けて掲載したいと思います。
その前に、参考資料をupしておきます。
(関連リンク)
薬局のオモテとウラ
http://blog.kumagaip.jp/article/3384742.html

厚生労働省:終末期医療に関する調査等検討報告書
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/07/s0723-8.html

おかえりなさい(終末医療を考える)
http://d.hatena.ne.jp/tomoworkaholic/20070126

  • 一家族として

十数年前、私の母は大腸がんに罹りました。一度は結腸の殆どを摘出し手術は成功だといわれたのですが、約1年ほど経ってから肝臓と肺への転移が確認され、死を待つ状態となりました。
当時は今ほど告知が一般化されておらず、主治医からも告知はされませんでした。
しかし、肺がんゆえのいつまでも止まらぬ咳や痛み等の異変に、母も主治医や私達家族に病名の説明を幾度と無く求めました。治らぬ病への母の絶望を恐れ、私達は最期まで告知はしませんでした。
でも母は気づいていたのでしょう。今まで孫の発表会など出ぬ人でしたが、それからは多くの人たちにまるで別れの挨拶を告げるように、頻繁に色々な会に出席しました。
その間にも少しずつ症状は重くなります。床に臥すように様になった時、私を呼び寄せ、枕もとにあった一つの文書を示しました。
それが「リビングウィル」でした。
初めて読んだ時、私は衝撃を受けました。死ぬ事の意味、生きることの意味を人生で初めて真摯に考えた一時でした。
そして続けて母はこう言いました。
「私が死んでも大きな葬式などあげてはいけません。身内の者だけでひっそりとあげるのです。
お墓や仏壇など要りません。そんな物に人の魂など宿りません。骨は大好きな六甲の山々にまいてくれれば良いのです。
私は貴方達の心の中でずっと生きていますから。」と・・・。
(まるで「千の風に乗って」の歌詞のようでしょう。初めて紅白でこの歌を聞いた時は涙が止まりませんでした。)
母が逝った後、私は人はどう死ぬのか、その事に一人の人間としてどう携わっていけばよいのか真剣に考えました。
そして、改めて薬学部に入学して薬剤師となり、病気の人たちと向き合う人生を選びました。

厚生労働省の終末期医療に関する調査報告書によると、最期を迎える場所を"自宅で療養した後病院や介護病棟で迎えたい人”48%、"介護施設で迎えたい人”32%、"自宅で迎えたい人"11%となっています。
実は以前放送局のアンケートでみた"自宅で最期を迎えたい人"80%というデータとは大きな違いがあります。これは厚生労働省の真面目な調査の中で、癌末期の痛みで家族に迷惑をかけたくないと患者自身の家族への思いが存在したのかもしれないし、放送局の街角アンケートで気楽に話せたせいかもしれません。詳細はわかりません。
ただ一家族としては、母がまだ肝ガンによる肝性脳症になる前、最期はホスピスで迎えたいと言っていたのに、最期を迎える一日前、ホスピスのベッドの中で、肝性脳症によって他人の事を気にせずただ自分の気持ちとして「おうちに帰りたいよう。」と言っていた声こそが真実のような気がします。

末期がんになると激しい苦痛が伴います。しかし、モルヒネなどの麻薬を使用する事により症状を和らげる事ができます。こうした医療を”緩和医療”といい、WHOも既に癌緩和医療治療指針を発表しています。
前回「おかえりなさい」の記事で紹介した桜井医師は「痛みは十分コントロール可能だし、比較的最期までADLが保たれる」と述べられています。
さくらいクリニック「おかえりなさい:あなたのお家のかえろう」http://www.reference.co.jp/sakurai/
また朝日新聞2007・2・18掲載「『死学』安らかな終末を、緩和医療のすすめ」を書かれた京都在住のホスピス医、大津秀一氏も麻薬使用による疼痛除去を勧めています。
今日では麻薬にも貼付剤、液体内服薬などいろいろなタイプの薬剤が存在し使いやすくなりました。
しかし日本ではまだ麻薬を使った緩和医療はそれほど進んでいません。確かにモルヒネには多くの副作用(便秘・吐き気・呼吸困難など)もあります。しかしそれ以前に麻薬に対する多くの偏見も存在しているのは事実です。
そこで多くの医師は”セデーション”を使います。これは患者を殆ど意識の無い状態、つまり眠らせてしまおうというものです。
セデーションhttp://www.sal.tohoku.ac.jp/~shimizu/euthanasia/sedation.html
たしかに寝たきりの高齢者にはいいかもしれません。しかし、まだ若い意志のしっかりした方にこの医療が良いかどうかは疑問です。疼痛を緩和して安らかな死を迎える方法として、緩和医療についての真剣な対応が図られるべきなのではないでしょうか。